「おい久遠!遅刻すっぞぉ!」
「待ってえええ!」
着なれた制服に腕を通しながら、ドタドタと騒がしい音を立てて久遠が階段から降りてくる。あ、パンツ見えた。
キャラパンとかダセーなぁ、おい。
「テーブルに食パンあるぜぇ」
「らじゃ、ぎゃあ!」
「っにしてんだお前ぇはよぉ!」
急ぎすぎて踏み外した久遠の体を受けとめて、リビングの方に押す。
久遠は苦笑いを溢しながら食パンを掴むと、口に含みながら適当に靴をはいた。
「飛段っ!はやく!」
「オイオイ慌てんなって、」
自転車の後ろにまたがった久遠は、ゆっくりと前にまたがるオレの肩を容赦なく叩く。
ペダルに足を乗せて、グンッ
「ひょーーー!」
「しっかり掴まってろよぉ!」
今日も、朝からオレと久遠は騒がしく坂を下って行った。
***
「朝からとんだ災難だったぜ」
「お前が規則を破るからだろう」
首を鳴らしながら教室に入ってきた飛段に一言そう告げれば、オイオイ冷てぇなイタチ!とついていけないテンションで肩を叩かれた。
忍術が使えようものなら、今すぐこいつを天照で消してしまいたい。
小さくため息をつくと、ひゅ、と何かを吸う音。
いつの間にか目の前には久遠がいて、嬉しそうに笑っている。
「ため息ついたら、幸せ逃げちゃうよ!」
「・・・久遠」
「イタチが吐いたぶん、あたしが吸ったからいいけどー」
へへ、と屈託なく笑う久遠につられて頬を緩めれば、彼女はますます嬉しそうに笑った。
いつも見せる変態っぷりで抱きつこうとしてきたのは、さすがに止めたが。
「あぁんイタチ逃げないで触らせて!」
「・・・朝からやってんなー、うん」
デイダラ!と瞳を輝かせて標的を変える久遠。
少し、面白くないな。
机に鞄を置きながら、デイダラは適当に久遠をあしらう。
「お?よぉデイダラ、サソリはどこだよ?」
「あ?あー・・・またやってる」
渋い顔をしながら、デイダラは廊下を指差した。
大方、女子生徒に呼び出しでもくらっているのだろう。
今朝も下駄箱に詰まっていた手紙を思いだし、オレまで気分が悪くなってきた。
「イタチもサソリさんもモテモテだねえ。妬けるー」
「棒読みだぞ、うん」
久遠は小さくアクビをして背筋を伸ばした。
***
「・・・チィ」
毎日飽きもせずに告白とやらをしてくる女どもに、朝から気分が上がらねぇ。
舌打ちをしながら教室に入れば、オレの机の周りでたむろして楽しげに会話するあいつら。
なんだか気に食わなくて、オレは気配を殺して久遠の頭を思いっきり叩いた。
「ったぁ・・・!ってサソリさん!おはようございますうぅっ」
「熱ぃくっつくな死ね」
「朝から酷い!でもわかってます、愛あるスキンシッぶほっ」
なにかほざいている久遠の顔面に一発お見舞いして、席につく。
「おぅサソリ、これで何人目だよお前にコクってフラれたやつ!」
「フラれるってのは決まってんだな・・・うん」
「あたりめーだ」
オレはこの、気持ち悪ぃくらいにキラキラした変態的な瞳を向けてくる、屈託のない笑顔を浮かべるこいつ以外は眼中にねぇからな。
という言葉は胸に留めておく。
開封されてない手紙がイタチの鞄から見えた。
「イタチこそそれ、どーすんだ」
「家に帰ってシュレッダーにかける」
「血も涙もない!」
久遠の叫びにオレとイタチは顔を見合わせて小さく笑う。
あたりめーだ、伊達に忍をしてたわけじゃねぇ。
「一限目なんだっけー」
「数学だろ、うん」
「げぇマジかよ!またあの呪文聞かなきゃなんねーのかよぉ」
「おめーがバカすぎんだよ」
「そろそろ時間だ」
一限目の始まりを告げる、鐘が鳴った。