「肝試しをしよう」
なにを血迷ったか、突然そんなことを言い出した捜シ者の表情は、それはもうウキウキと楽しそうだった。
いやほんとになにを血迷った。見てみなよ、泪が硬直して動かないじゃないか。
「だったらオレは久遠と組む」
「は?」
抵抗する間もなく雪比奈に腕を掴まれ、捜シ者はそれを快く承諾した。
いやいや待て待て、展開についてけてないのはあたしだけか!?
「やだよ雪比奈と組むなんて!つーかその前に肝試しとか何考えてんですか捜シ者!?」
「たまにはこんな息抜きもいいかなと思って」
「息抜きになりませんよこんなの!」
「・・・へー、久遠、怖いんだ」
「こっ怖くないし!!!」
思わず声を荒げてしまう。
しまったと思ったときにはもう遅くて、若干口角を上げた雪比奈がなら心配ない、と言ってあたしの腕を掴み直した。
そして、言い合いの後に結局肝試しは決行される。
***
生暖かい風が、頬を撫でる。
さっきからオレにくっついて離れない久遠が、小さな物音にビクリと肩を揺らした。
「・・・久遠」
「なっなっなっなに!」
「暑いんだけど」
本当は暑くなんてないけど、ついいじめてやりたくなるオレの気を知ってるのか知らないのか、きっと知らないまま久遠は少しうつむいた。
小さく、ごめん、と呟く声が聞こえる。こんなしおらしい久遠、初めて見た。
「怖い?」
「こ、怖くなんか・・・ひっ!」
面白くなって少しかがんで首筋を舐める。
久遠は予想通りのいい反応を返してくれた。
首を押さえて、でもオレの腕から離れずに、睨んでくる。
そんなことしても、なんの効果もないんだけど。
「ななななにすんだよ!おちょくるなこんな時にバカ雪!」
「楽しいから」
「楽しむな!」
好きな子はいじめたくなるって、知らないのか。
きっと知らない、だって久遠バカだから。
オレの気なんて知らないまま、その大きくもなく決して小さくもない柔らかなモノを腕に押し当てる。
オレだって、男なのに。
「・・・久遠」
「っ今度はなに!」
「・・・襲っていい?」
「・・・は?」
今なら暗くてよく見えないし、大丈夫だと思う。
真剣な声色でそう言えば、初めなにを言われてるのかわかってなかった久遠だが徐々に理解していったのか、その顔は暗闇でも分かるくらいに赤くなっていった。
かわ、いい。
「え、雪、ちょ、待っ」
「待たない。どれだけ我慢させれば気がすむ?バカ久遠」
「いや知らないし!てか雪比奈オイイイイイ脱がせんなボケ!」
「久遠に拒否権はない」
「待っ、んっ」
抵抗しようと口を開く久遠の口内に、順序を通り越していきなり舌を入れる。
艶かしい、舌と舌が絡み合うその音に、オレの理性は飛んだ。
「すき」
「っは、な・・・え?」
「二度は言わない」
抵抗しなくなった久遠に、今度は優しく口付けてやる。
そんな時、久遠の背後からこんにゃくを持った捜シ者が歩いてくるのが見えた。
「うらめしやー」
ぴとり。
久遠の首筋にこんにゃくがあてがわれる。
声にならない声を上げて、久遠の異能-風-が辺りに炸裂した。
周りの木々をなぎ倒す勢いで悲鳴を上げる久遠。
「久遠、落ち着いて。私だ」
「はっ、な、捜シ者っ・・・!?」
「まさか異能まで使うとはな」
異能のせいで脱げたフードを被りなおしながら、オレは久遠を見る。
久遠はオレと目が合うと途端に顔を赤くして脱兎のごとく走り去って行った。
「・・・わざとですか?捜シ者」
「ふふ、どうだろうね」
唇に残る感触に手を這わせながら、小さくなった背中を追いかける。
ある夏の日の思い出。