お風呂上りの女の体って、なんつーか、色っぽいと思う。・・・うん。
いつもはふんわりしてる髪の毛が妙に落ち着いてたりだとか、その髪の毛から滴る雫が鎖骨を伝ったりだとか、体から出る湯気だとか、少し潤んだ瞳だとか上気した頬だとか以下略。
それはいくら見慣れたこいつでも例外なく、オイラの目には普段より格段と色っぽく映るのだ。
アレだ。男はみんなそーゆう生き物なんだ。
「えっち」
「うっせーな。うん」
「そんなガン見されたら恥ずかしいでしょ」
「お前がエロいから悪りーんだよ」
「理不尽!ものすごく!」
そして、そんな色っぽさに思わずわきでてくる欲情を抑え込むためにオイラがいつもしてやる行為は、
「早くこっちこいよ、うん」
「んー」
「ったく長げーくせに量が多いんだよ久遠の髪の毛は」
「なんか言ったーーー?」
ぶおお、と大きな音を立てて(パワー全開でないとこいつの髪の毛は乾かねぇ)ドライヤーで久遠の髪の毛を乾かす。
オイラの声が届いてない久遠がしきりに何か言っているが、いかんせんドライヤーの音が久遠の声を遮る。
お互い何を言ってるか聞こえないのは、いつものことだ。
そして、
「だっからお前動くんじゃねーよ!」
「そこの漫画が見たいんだもん!」
「動いたら乾かしにくいだろーが!うん!」
「ちょっとだけじゃんそうやっていっつもすぐ怒鳴る!」
「怒鳴んなきゃ聞こえねーだろ!」
聞こえないから徐々に怒鳴りあいになっていくのもいつものこと。
最終的にはオイラが折れて、こいつの好きにさせてやる。オイラは大人だからな、うん。
十分くらいかけて乾かした久遠の髪の毛を軽く縛って、オイラの役目はそれで終わりだ。
「ねーなにする?」
「あ?何言ってんだよオイラは風呂入るぞ、うん」
「えーつまんないー」
「少しくらい待っとけよ」
唇を尖らせる久遠に軽くキスをして、オイラは立ち上がる。
さあ、わがままな子どもが拗ねないうちにオイラも早く風呂に入ろう。
惚れた弱み?愛ゆえに?
なんとでも呼べばいい。
「早くしてねー」
笑顔で手を振る久遠。
こんな日常に、オイラはまた幸せを噛み締める。