それは、飛段の気まぐれから始まった。


「オイ目ぇ瞑んな久遠!」
「いやこれ反射。人間誰もが起こりうる反射という現象」
「難しいこと言うんじゃねぇよわかんねぇだろ!」


小さな目薬を片手に久遠の頭を腿の上に乗せている飛段は、眉間にしわを寄せて久遠の頭を乱暴にかき混ぜた。
どこかの国で起こった小さな内戦で生き残った少女、久遠を拾ってからのオレ達の日常は、なんとも緩いものだった。

金を数える手を止め、呆れの眼差しを向ければ、その視線に気が付いた久遠はしかめっつらをしてオレを見た。


「うるさい角都」
「・・・何も言ってないだろう」


眼球から外れて目の端は頬に落ちた目薬が、涙のように頬を滑った。
それをまた乱暴に拭った飛段が、今度こそ、と目薬を構える。


「おりゃ、」
「、む」
「むじゃねぇよてめー!目ぇ開けろいつまで経っても入んねぇだろーがよぉ!」


雫が入る寸前で閉じられた久遠の瞳。
気の短い飛段だが何故か久遠には甘く、喚くがそれほど怒ってはいないように見えた。


「人間の体ってフシギー」
「他人事みてぇに・・・もー入れてやんねーぞ」
「えー諦めないで飛段」
「よくそんなこと言えたな?この口かぁ?あぁ?」
「いひゃいいひゃい」


片手で頬をつねりながら、不意打ちで眼球に目薬を入れる。
う、と小さな声を漏らして久遠は瞳をしばたかせた。


「っはー」
「オラ、もう片方もいくぞ」
「あーい」


どうやらもう少し時間がかかりそうだ。

オレは金を数える手を再開しながら、聞こえてくる久遠と飛段の会話に耳を寄せるのだった。

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