泣きそうな顔をして、イタチ兄さんとか細い声で呼ばれ、細い手を一生懸命に伸ばすこいつを拒絶するなんてこと、誰ができようか?
胸板に顔を押し付けて声もなく泣く久遠に、愛しさばかりがつのっていく。
こんなときに頼ってくれるのがオレで良かったと、場違いな優越感に苛まれる。
部屋を包む沈黙すら、久遠の弱さをひしひしと伝えているようで。
意外にも小さな背中に手を伸ばせば、久遠はまたオレの名を呼んでさらに強くしがみついてきた。
ああ、いとおしい、な。
「・・・大丈夫だ」
「・・・ぅ、・・・はい・・・」
「大丈夫」
「っ、・・・!」
涙は見たくない、けど。
久遠が自分の弱さを見せるのはオレだけであってほしいと。
そう願ってしまうオレは、我が儘なのだろうか。
「久遠、」
「、はい・・・」
「大丈夫だ」
「は、いっ・・・!」
イタチ兄さん、イタチ兄さん。
またオレの名を呼んで、オレはそのたび久遠の背中を撫でて。
けして長くはないこの身が、こいつの役に立つのなら、いいと思った。
「イタチ兄さん、だいすきです」
「・・・ああ、」
きっとこいつが望む答えは、返してやれないけど。
「・・・オレも、」
これだけは、本当だ。
せりあがってくる血の味には、気づかないふりをした。