久しぶりに、懐かしい夢を見た。
久遠は上半身を起こすと、伸びをしてあくびをひとつ漏らす。

今日は気分が乗らないな。

ザァザァと聞こえてくる雨音に、苦笑を漏らしつつ、久遠はベッドから這い出る。
その目には、憂いの色が宿っていた。


***


「・・・なぁ旦那、あいつ元気なくね?」
「あ?・・・」


デイダラとサソリはリビングのソファーに腰掛けながら、イタチの向かい側でパンを食べる久遠を見ていた。
風邪を引いたわけでもなさそうだが、いつものパワフルさ(暁はそれを変態と呼ぶ)がない。

デイダラおはよ、と笑顔で言われたとき、あまりにも普通な対応にデイダラは数秒なにも言い返せなかったのだ。
普段なら抱きつく勢いで駆け寄ってくるのに、と少しの物足らなさも感じてしまうほど。

サソリもそれを感じていないわけはなかった。
そして、真正面に座るイタチも。

どこかしおらしい久遠。
聞くに聞けない自分の情けなさを各々が感じていた時、なにも考えずに行動を起こすやつがリビングに入ってきた。


「ただいま帰ったぜぇー久遠ー」


任務帰りの飛段と角都がリビングに入ってきた。角都は金が入っているであろう角ばったケースを所持している。
飛段は薄く笑う久遠に違和感を覚え、近くまで行って顔を覗き込んだ。


「どしたぁ?」
「随分としおらしいな」


角都までが問いかける。
久遠はんー、と唸りながら飛段の腰に巻き付いた。


「お。マジでどーしたんだぁ?」
「軽いホームシックです・・・」


一応元気がない自覚はあったのか、顔をグリグリ押し付けながら久遠は言った。
その言葉に、リビングの空気が固まる。
デイダラは、え、と声を漏らした。


「懐かしい夢見てさー・・・」
「な、何の、夢だ?・・・うん、」
「え?・・・まぁ、家族のこととか、いろいろ」
「っなぁオイ!!か、帰りてぇとか言わねーよなぁ!!?」


飛段が焦燥感に駆られて腰に巻き付いている久遠の肩をガクガク揺さぶった。
痛い痛いと首を前後に動かされながら唸る久遠。
角都が小さくため息をついて飛段を止めに入った。


「いったた・・・角都ありがと、」
「、いや」
「っなぁ!?オレの質問に答えろよ久遠っ」
「うわっ!いや、落ち着け飛段くん。大丈夫、帰りたくても帰れないから」


久遠の言葉にサソリとイタチが眉をひそめた。
帰りたくても帰れない?
それはつまり、帰りたい気持ちはあるということか?と。


「おいそりゃてめぇ、」
「サソリ」
「・・・チィ」


聞いたところでなにになる?というイタチの視線に、サソリは舌打ちをして座り直す。
そのとおりだ。きっとやるせない気持ちが後味悪く残るだけ。


「こんなあたしでも一応、友達とかいたしねぇ」
「いたのかよ!?」
「飛段そこ驚くとこじゃないよね!?」


久遠はため息をついた。


「オイラてっきり、妄想の中で生きてんのかと思ってたぞ。うん」
「おおうまさかの」


まぁねーあながち間違いでもなかったけど。
冷めた目で久遠を見る一同。
居心地が悪くなった久遠は、咳払いをして場を誤魔化した。

そして、なにかを思い付いたようにひそかに笑う。


「彼氏もいたし」
「「っはぁあ!!?」」


デイダラと飛段が合唱した。


「おまっ、え!?」
「有り得ねーだろぉ!?」
「ふたりとも失礼!!」


あたしも彼氏くらいいたよ!と若干大きな声で言った久遠に、悔しそうに唇を噛むデイダラと飛段。
サソリやイタチも若干眉間にしわを寄せて久遠を見た。

仕方のないことだろうと割り切るには、少し無理な話だった。
自分の知らない久遠がいるのは、この上なく不愉快だ。不満だ。
心中、みな同じ気持ちだった。


「絶対ぇ嫌だ!!!」
「ぐぇっ!」
「帰さねーぞ、んなどこの馬の骨かわからねぇ男のとこなんか!!うん!!」
「ぐぉっ!?ちょ、ふたりともっ、」


デイダラはいつものツンな態度を忘れて、飛段の反対側から思い切り久遠を抱き締めた。
男ふたりからの熱烈なハグに耐えれるほど、久遠の体はタフではない。
見かねたイタチが仲裁に入り、ふたりを引き剥がしてそのまま久遠を優しく包み込んだ。


「い、イタチ兄さん・・・?」
「・・・いや、少し嫉妬しただけだ」
「は?嫉妬ですか?」


どこか遠くを見つめるイタチの瞳は冷たい。
恐怖を覚えた久遠はガチリと固まった。


「・・・まぁどちらにしろ、久遠はオレの拾いモンだ。誰にも渡さねぇよ、過去の思い出にも、な」
「サソリさん・・・」


久遠はいつもの笑顔に戻って、はい!とうなずいた。

彼氏の件が嘘だとわかったのは、また少しあとのこと。

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