目の前の現実から逃避するみたく、デイダラとサソリは思いっきり視線を逸らした。
目の前に立つ少女・・・否、女性が困惑した顔でふたりを見ている。
「・・・あの、」
「知らねぇ、オイラは何も見てねぇ」
「おいてめークソダラ逃げてんじゃねぇよ」
「旦那だって逃げてんじゃねーか!うん!」
前髪が伸びている。
どこか妖艶な雰囲気を醸し出していて、眉尻を下げて口元に手を持っていくその姿は、いつもの"そいつ"ではなかった。
曰く、
「なんでこんなことになってるのでしょうか?なんだかいきなり、気持ちが落ち着いて胸あたりも重くなったし、前髪は伸びてるし・・・」
サソリとデイダラは顔を見合わせた。
記憶を馳せた。
確か、誰かが買ってきていたまんじゅうを食べましょうと満面の笑みで久遠に言われ、断る理由もなかったふたりは手をひっぱられながらリビングに来た。
お茶を入れるために席を立ったデイダラ。食べ物は必要ないサソリが椅子に腰掛けながら包みを開けた。
一番乗りー!と言って久遠は"待て"の待の字もインプットされてない頭で、遠慮なくまんじゅうを口に放ったのだ。
その結果が、これである。
「一応オレらのことはわかるんだろ?」
「はい。まんじゅう食べたらこうなりましたよね・・・なんでだ」
「ちゃんと包みの注意とか読まねぇからだろ、うん」
「普通読まないでしょー」
デイダラとサソリは比較的落ち着いた会話をする目の前の大人びた久遠に、違和感を通り越して寒気しら感じた。
久遠が久遠じゃない。
それは久遠も同じようで、伸びた前髪を眉を寄せながらいじっている。
そんな時、ひとりの男がリビングに入って来た。
紅の瞳を持つ、イタチである。
イタチは立ち尽くす三人を見て、わずかに眉をひそめた。
「・・・お前、久遠か?」
「さすがイタチ兄さ・・・、イタチさん」
兄さん、と呼ぶことに躊躇して言い直した久遠に、イタチは違和感を感じまくった。
誰だこれは。
サソリとデイダラに視線で問う。ふたりは首を横に振った。
「まんじゅうです」
「意味がわからない」
大人びたとはいえ、少し残るバカっぽいところを見れば、やはり久遠かとイタチは自分の中で結論づけた。
だが、こうなってしまえばやっかいだ。
特に飛段などに見つかれば騒ぎまくるだろうし・・・
「んん?あれ?・・・え!?久遠かぁ!!?」
「飛段・・・」
見つかった。
サソリ達三人は心の中で舌打ちした。・・・否、サソリは目に見えて舌打ちした。
人の事は言えないが、暁の中でも素行が悪い飛段が、久遠になにかしでかさないか。疑うべきはそこだけである。
普段兄妹のように接しているふたりだ。いきなり久遠が大人びたとなれば、飛段は・・・
「うん、なんか大人になっちゃったみたいで」
「オイオイまじかよ。おめーそんなおとなしくなんのかよ」
「かなー」
「ダメだダメだ、久遠はある程度バカじゃねぇと!」
「なにそれ」
めっちゃ比較的普通で平和な会話だった。
妹は大きくなっても妹なのか・・・と、デイダラは少し安心してため息をついた。
「んで・・・どーやって戻すか考えねぇと」
「うー・・・よろしくお願いします、サソリさん」
「お、おお・・・」
大人な対応に、サソリが一瞬どもった。
普段あれだけパワフルなだけに、違和感を拭えない。
ひとまず、久遠のことはリーダーにパスしよう。
自分達ではどうにもならないと判断した四人は、半ば無理矢理久遠をゼツに預けるのだった。
***
「・・・ふむ」
雨隠れの一番高い塔。
顎に手を当てながら、ペインは久遠を見下ろした。
きちんと膝に手を置いて座る久遠。
白ゼツが久遠が久遠じゃない・・・と呟いた。それにはマダラや小南も同感である。
「心配しなくても、時間が経てば戻るだろう」
「っていうかあのまんじゅうなんなの?」
「そんなものは知らん。オレに聞くな」
「・・・うーん・・・」
とりあえず早く戻りたいなぁと呟いた久遠に、みんな心の中で懇願した。
早く戻ってくれ、違和感ありすぎて調子が狂う、と。
久遠が元に戻ったのは、それから一時間もあとの事。
「デイダラァァァァ!!」
「来んな!!うん!!」
「久しぶりだねデイダラ抱きしめてい、ぐはっ」
「お前もう一回あのまんじゅう食べろ!!!」