「サソリさんサソリさんっ」
嬉々として駆け寄ってくる久遠に、嫌な予感がした。
こいつは何か楽しいことを見つけた時、例えれば猫じゃらしにじゃれる猫のような顔をする。
鼻をぷくぷくと膨らませ、口許は弧を描き、頬を蒸気させるのだ。
可愛いとか断じて思っちゃいねぇ。
が、まぁ・・・こいつの楽しげな顔を見るのは嫌いじゃねぇな。
振り向いたオレに、久遠は手に持っていた段ボール箱を掲げた。
「・・・んだソレ」
「ちょっとあたしとお遊びしませんか!しましょう!」
有無を言わさずオレの手を引く久遠。
鼻から逃がさねぇ気満々じゃねえか。ふざけんなよ。
***
「・・・で、お前は一体何がしてぇんだよ・・・」
「やぁんかっこいい!サソリ萌えぶふぉう痛いです!」
「気色悪いこと言うな。てめぇはオレに砂隠れの服着させてなにがしたいんだって聞いてんだ!」
「えー単純に砂隠れの時はこんなのだったのかなっていう妄想を現実で拝みたかっただけですhshs」
「キモい死ね」
「次はこれお願いしますっ!」
スルーかよ。
渋い顔をしているであろうオレをよそに、久遠はスーツを取り出した。
・・・いや、お前これどこから取り寄せてんだよ。
仕方なく受け取り、袖に腕を通す。
着替えの時はこっちを見ないこいつは、意外にも律儀なのだ。
「・・・・・・おい」
「っはい、着替えれました!!?」
「興奮してんじゃねぇよバカ。つかコレなんだよ」
くるりと振り返った久遠に手に持ったものを見せる。
「首輪ですけどっていったぁあ!」
至極真面目な顔で答えた久遠のデコに一発お見舞いする。
なにするんですかあ、とか、知るか。こっちの台詞だ!
「こんなもんつけれるか!」
「ちぇー軟禁されてる執事の妄想を現実にしたかったのに・・・」
「ふざけんな死ね」
「さっきから酷くないですか!!?」
ぷくーと頬を膨らます久遠。腹いせに思い切りつねってやったら涙目になった。
「じゃあー、次はあたしも一緒にコスプレしますね!」
「まだあんのかよ・・・」
今まで見せたどの顔より嬉しそうに笑って、久遠は純白のドレスを取り出した。
・・・これはまさか・・・もしかしなくても・・・
「結婚式の妄想をいざ現実に!」
「しねぇ」
「即答っ!!?」
ガビィン、と効果音を発しながら久遠はうなだれた。
オレは小さくため息をつく。
なんか無駄に疲れた。
「絶対お似合いのふたりなのに!」
「よくそんなこと自分で言えるなお前」
純白のドレスとスーツを見ながら、オレはなんとなくそれに身を包むふたりを想像した。
・・・・・・・・・、
「・・・まぁ、似合うんじゃねぇの」
「え?なんか言いました?」
「っ、なんでもねぇ」
「?」
一度着てしまえば、本番での感動が薄れんだろ。
それは、本番までとっとけ。
その時になるまで、考えておいてやるからよ。