これから思うことは、私の自惚れでも自意識過剰とかでもなく、事実だ。

私は一匹狼と称される、浅羽兄弟の片割れと仲が良い方だと思っている。
そんなこと周りには(特に女子)口が裂けても言わないけど、話しかけられても大抵がシカトの浅羽だが私と話すときは普通だ。むしろ浅羽が好きなアニメの話とか、私が退屈しない程度におもしろおかしく話してくれるし、浅羽の兄の自慢話だとか、浅羽の隣の席の橘とかも一緒になって話していることもしばしば。
それでも結局は浅羽と話してることが多いもんだから、好かれてはいなくとも嫌われてるわけじゃないと思う。
ていうか、こいつは嫌いとか好きとかあまり表に出さないから分からないけど、シカトする理由はただ単にめんどくさいからだと言う。


「楸さーん」
「んー?」
「ポッキー食べる?」
「ん」


差し出されたポッキーの箱に手を突っ込んで、一気に五本程度抜き取る。
あー、と間の抜けた声を出して、浅羽は残りを確認するように片目を瞑って箱の中を覗いた。
ポッキーはイチゴ味だ。甘いのは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。


「あーあ。楸さんのせいであとラスト一本になっちゃった」


どうしてくれるんですか、と無表情のまま非難の目を向けてくる浅羽に、どーもしないよと返す。
ラスト一本をつまんで口に入れながら、浅羽は言った。


「責任、取ってもらいます」
「いや責任て」
「昨日のやつ、観た?」


おい話が噛み合ってないぞ、と思いながら記憶をはべらせる。
昨日のやつ、とはたぶん浅羽と話すようになってからすすめられたアニメのことだ。
淡い青春物語で、浅羽がこんなのを観るなんて意外だったけど、観てみると案外ウケた。
目の前の浅羽に視線を戻せば、どこか期待に満ちた眼差しをうける。無表情だけど。


「・・・あー、観たよ。それがどうかしたの?」
「内容、覚えてますか」
「内容?そりゃもちろん、」


覚えてる。
そう言おうとして、ハッとした。
確か昨日であのアニメは最終回だったはずだ。
今まで友達だったふたりが、長い長い時間をかけてやっと結ばれた。
その関係はまるで、今の浅羽と私みたいな感じで。

浅羽の意図する事が分かり、一気に顔に熱が集まる。
え、もしかして、もしかしなくても、


「・・・覚えてる?」
「う、あ、え、・・・」


言葉にならないものしか出てこない。
とりあえず顔を隠そうとした私の手首を掴み、浅羽は顔を覗きこんできた。
ちっ、近い近い近い!


「久遠」
「っ、」
「最終回の、感想は?」


じ、っと見つめてくる浅羽の瞳から逃れられない。


「かっ、変わるのは一瞬だなって・・・思った・・・」


そう言うと、浅羽はどこか嬉しそうな顔をした。


「責任取ってね」
「なんっ、?」


一瞬、視界が浅羽でいっぱいになる。
にぎやかな教室の音も、廊下の音も、なにも聞こえなくなった。
唇に触れたその温かさに、なにが起こったのか判断できない。


「すき」
「え、あ、あさば・・・」
「すき、です」
「う、ん」
「責任とってね」
「うん」
「オレのこと、すき?」


私の手元に残っていたポッキーを私の口に押しあてながら、浅羽は首をかしげた。


変わるのは一瞬
(・・・すき、)

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