背後から腕を回して抱きついている遊騎を放置して、みんなと話していたのがいけなかったのでしょうか。
「久遠〜」
「ん?ぶふぉっ!!?ちょ、刻、なにその顔ウケる!!」
振り返ると、唇が腫れている刻が涙目になっていた。
イケメンなのに、イケメンなのに・・・!台無しすぎて笑える。
からかいついでに唇を軽くつまんでやれば、案の定痛がった。
たまりにたまった涙が一筋頬をつたう。
「な、に、したっ、ぶほ、のさっ・・・!」
「ちょ、そんなウケる?ネェ?」
「だっ、ダメ、だっ、アンバラ、ンス、すぎてっくっ・・・!」
「泣いてイイ?」
いいよーと頭を撫でてやれば、刻は少しだけ嬉しそうに笑った。
同時に、私を抱きしめる彼の腕の力が少しだけ強まったのには気が付かないふり。
禁煙のためにガムを噛もうとしたら、思いっきり唇を噛んでしまったらしい。
それはストレスがたまってる証拠だよーって言えば(笑いをこらえながら)、刻はなにか納得したように笑ってどこかに行ってしまった。
あーおかしかった。
「久遠」
「あ、おおがに〜」
「大神です。桜小路さんを見ませんでしたか?」
ひょっこりと顔を覗かせたおおがにに笑いかける。
おおがには少しだけ会釈をして用件を言ってきた。
んー桜は見てないなぁ・・・。そのことをそのまま伝えると、彼はそうですか、と呟いた。
「相変わらず仲良しだねぇ、桜とおおがに」
「別に、ただの観察対象ですから。それと、大神です」
「大紙」
「燃え散らすぞ」
「ごめんなさい」
左手の手袋を外そうとする零にすぐさま謝れば、最後に能面の笑みを貼り付けてどこかに行ってしまった。
・・・危なかった。
さっきから徐々に締め付けてくる彼の腕、私はまだ耐えれる。
「久遠、次の任務の予定ですが・・・」
「あ、変態。なんの用だ」
「さっき次の任務の予定ですと言ったでしょう。それに私は変態ではありません。・・・ですが、そうですね・・・そろそろ、苦しそうですよ?あなたも」
「っ、ごめんまた後にして」
「まったく・・・。イチャつくのはよそでやってください」
そう言って、平家は部屋を出て行った。
「・・・遊騎」
「・・・嫌や」
「遊騎」
「・・・・・・、いや、や」
離したってどこにもいかないのに。可愛いなぁ遊騎は。
それでもこのままだと苦しいし、なにより遊騎の顔が見れない。
もう少しだけ強めに遊騎の名を呼べば、しぶしぶといった様子で開放してくれる彼。
向かい合わせになるように座りなおせば、また抱きついてきた。
ふわふわと赤い髪が私の頬にあたってくすぐったい。
そんな彼の髪の毛を撫でて、少しだけ離れる。至近距離で遊騎の赤い瞳を見つめてから、そっと唇を押し当てた。
「っ、!」
「ほらね、分かった?心配しなくてもいいよ」
「・・・おん」
嬉しそうに笑った遊騎に、もう一度だけ口付けた。
心配しなくて、いいよ
(どうあがいたって、私はあなたのものなんだから)