帰ったら私のものじゃない靴が無造作に脱ぎ捨てられていた。
少しくらい配慮したらどうなんだなんて思ったが、言ったところであいつの癖が治るわけなんてないからそのまま私も自分の靴を脱ぐ。
手で靴をそろえてやるのもなんだか癪だから、足でちょいちょいと動かしてある程度揃えてやった。
敬え。
薄暗い廊下に電気を点け、真っ暗なリビングを覗く。
ソファーに見慣れた丸いかたまりがひとつ。私は鞄をかけて彼に近寄った。
「刻」
「・・・」
刻は立てた膝に顔を埋めて丸まった体勢から、ゆるゆると顔を上げた。
乱れた髪を手櫛でとく。少し目を細めて、刻は私の手を取った。
「ごめん、」
「なんで謝るの、今さら。謝るくらいなら玄関に靴脱ぎっぱにしないでいい加減揃えてよ」
「うん」
いい加減な返事をしながら、刻は取った手をそのまま自分の方に引き寄せた。すなわち、私の体も必然的に引き寄せられるわけで。
背中に回された手にため息がこぼれる。肩に埋められた顔。
質の良い髪の毛を撫でてやれば、私を抱き締める腕に力が若干強まった。
「久遠は、何も聞かないよネ」
「なに?聞いてほしい?」
「アリガト」
会話が成立してない気がしたけど、あえてつっこまないであげよう。
私の肩から顔を離した刻と目が合う。
刻の口元が弧を描いて、そのまま私の唇と重なった。
「好きだよ、久遠」
「うん」
刻が抱えるモノがなんなのかは分からないし、知ったところでどうにもならないのかもしれない。
それでも私は刻が好きで、大切で、なくしたくないから。
いつか君を救えるように
(君の拠り所になる、)