なんか一争いが起きそうな渋谷荘から脱出して、私は息抜きに街に出ていた。
なんなんだあの空気は。
刻はフォークやらスプーンやら飛ばして地味に攻撃するし、零はなんの戸惑いもなくそれを燃え散れとかいいながら跡形もなく消し去るし、遊騎は遊騎でなぁ続きしてやとか空気読めなさすぎる発言するし、将臣なんか鞭を取り出して・・・その先は考えたくもない。

いつの間にか居た王子がまた怒鳴り散らして、どさくさにまぎれて渋谷荘を抜けてきた私には誰も気づかなかった。・・・はず、うん。


「なんだみんな私のこと大好きかよ」
「気づいてなかったのか。バカ」


ひとり呟いた言葉に返事が返ってくるとは予想してなくて、心臓が止まるかと思った。
この声は。


「雪比奈!」


フードを被ったイケメンが、その氷のような冷たいめとふっ、と和らげて私を見た。
そんな眼差しでオチない女子がいたら見てみたいね。
思わず見惚れるとはこのことを言うのだろう。


「自覚なしか?ますますバカ」
「バカバカ言いすぎです」
「バカもまた良し」


雪比奈とは違う声。
後ろから聞こえたそれに私はムッとして振り返った。
昼間っからお酒ですか、虹次。


「飾らないお前の良さ、さ」
「それはけなしてんの?褒めてんの?」
「けなしてる」


冷たく言い放った雪比奈に、虹次が首を横に振った。
褒め言葉だと笑う虹次に頭を撫でられる。
なんだかくすぐったくて、身をよじればさらに強い力でグリグリされた。
真面目に痛い。


「なんでここに?」
「それはこっちが聞きたいけど・・・まぁ、渋谷荘のみなさんから逃げてきました」


雪比奈の問いに簡潔に答えれば、無表情な彼の眉が若干ひそめられた。・・・気がした。
また?と呟く雪比奈に虹次が苦笑する。
ん?またってなんだ?


「久遠はもう少し自覚したほうがいい。だからバカなんて言われる」
「バカって言ってるのは雪比奈だけどね・・・」
「どうせアイツらにも言われてるだろ」
「ぐ・・・!!」


声を上げて笑う虹次を睨めば、すまんと誠意の欠片もない謝罪とともにまた頭を撫でられた。
撫でられるのは嫌いじゃない。むしろ好きだけど、こんなけなされた気分で撫でられるのはなんだか複雑だ。
少しのお返しのつもりで虹次の鍛え上げられた腹筋を軽く殴る。
握った拳が逆に痛かった。くそう。


「たまには散歩もしてみるものだな。久遠に会えた」
「それは喜んでいいの?ダメなの?」
「喜べ。決して悪い意味ではない」


いささか疑問だったけど、私を見る虹次の目がこれまでにないくらい優しかったから、素直に頷いておけばまた頭を撫でられた。


「触りすぎ」
「雪比奈?」
「・・・ふ、そう妬いてやるな雪比奈。コレはお前だけのものじゃない」


コレって私完全に物扱いじゃないですか。

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