ゴゴゴ、とアジト中に響いた音に冷蔵庫から取り出した卵を落としそうになった。
危ない危ない。もう少しで割るところだった。
でもやっぱりあふれ出す興奮を抑えられず、取り出した卵をもとの場所に戻してアジトの入り口へと走る。
芸術コンビは昼任務に出かけて朝方まで帰ってこない、不死身コンビが帰るのはあさってだって聞いてるし、残るは―――


「イタチ兄さあああああああああああああんんんっ!!」


見えた影に抱きつけば、頭上から気持ち悪いですねぇと低い声が降ってきた。
・・・ん?


「あなたに抱きつかれるデイダラの気持ちが少しわかりました。心から同情します」


黒いマントの向こう側を見る。そこには、イタチ兄さんが無表情に立っていた。
・・・て、ことは。
いや考えるなあたし。考えたらだめよ。


「おおおかえりなさいイタチ兄さああああんんんんっ・・・!」


あまりの屈辱に、本気で出た涙を拭かないまま鬼鮫から離れてイタチ兄さんのマントに顔を押し付ける。
汚いぞと優しく言われた。そんな同情しないでください、悲しいから。


「・・・まったく。どこまでも失礼な女ですね」
「だだだ黙れ!!さっきのはなし!!暗くてよく見えなかっただけ!!」
「あなたの愛するイタチさんと、私をですか?それは面白い」
「イタチ兄さんごめんなさい!!こんな青白い物体とイタチ兄さんは似ても似つかないのにああもうイタチ兄さん愛してます!!」
「・・・無視するとは、いい度胸ですねぇ」
「・・・鬼鮫、止めろ」


イタチ兄さんは優しくあたしの頭を叩いて、ゆっくりと体を離した。
別に気にしていないと言うイタチ兄さんに再び抱きつく。今度は呆れの混じったため息が聞こえてきた。
それがどっちのものか分からなかったけど、鬼鮫だったらぶっ倒したかったけど、あたしは聞こえないふりを決め込んだ。
イタチ兄さんと鬼鮫の動物コンビは、比較的冷静で任務の成功率も高いからよく駆り出される。まぁ鬼鮫はどうでもいいけど。ていうか鬼鮫お前一人で行けよみたいな。そしたらイタチ兄さんとあたしの愛の時間に支障はなくなるのに。ああマジでリーダーに相談してみようかな。イタチ兄さんとあたしの愛の時間をもっと増やしてくださいってぐぇ!!


「次はゲンコツなんかじゃ済ましませんよ」
「え?え?なんで?え?あたしなんで殴られたの?え?鬼鮫ごときに?」
「本気で削りますよ?全部声に出てるんです。馬鹿正直も大概にしてください」


鮫肌に手を伸ばしかけた鬼鮫をイタチ兄さんが制した。
ため息をつきながら、あなたはこの女に甘いんですと呟く鬼鮫滅びろ。
あたしとイタチ兄さんの愛を前に朽ちろ。


「・・・声にこそ出してませんが、あなたが今考えてることはなんとなく伝わってきますよ」
「ああそれは失敬ー」
「棒読みですねぇ」
「いやちゃんと気持ちこめてるよ。めんどくさーって気持ちをねりこんでるよ」


ふ、と頭上でイタチ兄さんが微かに笑った。
ほんの少し上がる口角。あたしも嬉しくなってドキドキして、


「ああんもうイタチ兄さん大好きですうっ!!」
「、分かったから離れろ」


照れ隠しに思い切り抱きついた。
ボキャブラリーの少ないあたしの頭では大好きだとか愛してるだとか、そんな言葉を連発することしかできないけど、あたしはイタチ兄さんの笑った顔が好きだ。

温かい体温に目を閉じて、また目を開けて、笑ってみせる。
イタチ兄さんもそんなあたしを見て、また少しだけ笑ってくれた。

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