わたしの幼馴染みは、幼馴染みと呼ぶにはあまりにもかっこよすぎて気が引ける、そんなやつ。
自分に寄ってくる異性にも冷たい視線と冷たい言葉を投げ掛ける、氷みたいな心を持ってる。
いくら世間がチョコだのバレンタインだの騒がしくても、一向に興味を示さない。
むしろ普段から物事に対して興味がないのかもしれない。
今日だってほら、周りで騒ぐ女子にまったく視線を向けず、ずかずかとこっちに歩いてきた。
おい、みんなに見られるんだってば少しは学習してよ。
「・・・久遠、」
低い声。
周りで騒ぐ女子にイラついているのか、いつもより表情が固い。
幼馴染みのわたしだからわかるんだ、これは相当キテる。
「チョコ」
が、次に発せられた雪比奈の言葉はあまりにも予想外で、へ?としたたか間抜けな返答しかできなかった。
今、なんつった?
「・・・いい加減、チョコくれたらどうなんだ」
待ちくたびれた、とわたしの頬に手をあてる雪比奈。
くそう、様になってる。
「まだ甘いのでいいから」
「・・・えっ、と・・・」
じゃあ、ハイミルクの板チョコ買ってくるよ。
「いつか手作りで苦いの、くれ」
「・・・はーい」
そう遠くない未来。
苦すぎて顔をしかめる雪比奈の姿を想像して、ひとり笑った。
まだ甘いんだ
(はい、)
(・・・これは、甘すぎだ)