きっと遊騎は苦いのより甘いのが好きだ。
ビターチョコとミルクチョコとにらめっこしながら、私はそう思った。
うーんどうしよう?
家に帰ったらきっとチョコなんて言えば出てくるんだろうけど・・・
やっぱり私が最初から最後まで選んで、つくって、遊騎にあげたいしなぁ・・・


「なにしてん?」
「う、わぁっ!?」
「そんなにびっくりすることないやん、」
「びびびびっくりしたぁー・・・!」


いきなり抱きついてきたその人は、今絶賛思案中の遊騎。
任務帰りなのかな、少し服が汚れている。


「遊騎、おかえり」
「ん」


ほっぺに軽くキスをすると、遊騎は嬉しそうに笑った。
こんな幼いのに、あの天宝院の社長っていうんだから、世の中不思議だ。
そして、そんな遊騎の許嫁になれた私の運命は、もっと不思議だ。


「で、なにしてん?」
「あー・・・今日バレンタインじゃん?遊騎、苦いのと甘いのどっちがいーかなぁって」
「久遠作ってくれるん?」
「まぁ・・・一応許嫁、だし」
「一応ちゃう。久遠はオレのめんこい許嫁や」
「う、あ、ありがとう・・・」


天然って怖い。
こういうことサラッと言っちゃうから怖い。心臓に悪い。


「オレ、苦いのがいい」
「っえ、意外」


遊騎なら甘いのって即答するかと思ったのに。
とりあえずビターチョコをかごにいれる。

でもなんで苦いのがいいんだ?


「甘いのやったら、」
「うん?」
「バランスがあかんし」
「へ?バランス?」


食後の久遠はめっちゃ甘いから、チョコは苦くしとかんと。


「・・・え」
「な?」


意味を理解したとたん、一気に頬に熱が集まる。
いや、ちょ、ま、待てや!


「久遠めっちゃ赤なっとるし。めんこいなぁ」
「あ、の・・・遊騎?」
「なんや?」
「それは、その、決定事項?」
「当たり前やし」


・・・ビターチョコは棚に返そう。


食後の甘いの
(はよ帰ろ)
(か、帰りたくない・・・!)

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