甘い匂いが充満したキッチン。
楽しそうに鼻唄を歌う久遠殿の姿。
私の隣で無表情に久遠殿を見つめる大神。
大神の膝に座る子犬。


今日は、バレンタインデー。


"うちにおいで、チョコつくってあげる!"


コードブレイカーである久遠殿に呼ばれて家にお邪魔したのは、何十分か前のこと。


「いい匂いがするのだ!」
「待ってて、もうちょっとだから!」
「分かったのだ」


久遠殿が両手に抱えて持ってきたのは、大きなチョコケーキだった。
子犬がそばで目を輝かせる。


「驚きました、久遠は料理ができたんですね」
「じゃないと一人暮らしなんてやってけないよ」
「うん、美味なのだ!久遠殿、ありがとう!」
「いーえ、零も食べてね。子犬も」
「いただきます」
「アン!」


それにしても、

大神が呟きを漏らす。


「あの久遠が料理ですか」
「どーゆう意味だよ・・・てか敬語止めてよ気持ち悪い」
「・・・気持ち悪いとまで言うか」
「零が私に敬語なんて、背筋が凍るね」
「慣れたものはしょうがないだろう」
「この能面野郎が」
「燃え散らすぞ」
「ハゲ散らすぞ」


久遠殿と大神は、どうやら昔からなにかと関わりが多かったらしい。

ふたりだけの世界、とでも言うのだろうか。
互いに毒つきながらも、それは決して刺々しい雰囲気ではなく、逆に和やかなものだ。

あの大神が、取って貼りつけたような笑みではなく、微小なりとも心から楽しんでいるように見える。


「だから零はいっつもケガばっかりなんだよ」
「お前が言えることじゃないだろう。おっちょこちょいが」
「うるさいなー、チョコケーキでも食べてエネルギー摂取しときなよ」
「・・・ありがたくいただく」


私はふたりのこの雰囲気が大好きだ。
きっとふたりとも、互いがとても大切なのだろう。


「久遠殿と大神は、仲良しだな!」
「「どこが」」


チョコケーキは、苦かったのだ!


エネルギー摂取
(こんな形でしか、ねぇ)
(シャイなのだな)

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