1年で一番嫌いな日がやってきた。
今日はバレンタインデー。
女の子が男の子に、愛をこめてチョコを渡す年に1回与えられた絶好のチャンスの日。

でも、好きな人がいない人にはただ虚しさを感じるだけで、もらえない男の子もまた然り。

・・・私みたいに、渡したくても渡す勇気を出せない人もまた然り。


「はぁー・・・」


無意識にため息が出る。

高校も3年になって、自由登校の時期に突入した今。

頭に浮かぶのは、年下のくせに生意気なあいつの顔。

刻と知り合ったのは、もう随分と前のことだ。

出会いはなんともベタな展開で、不良に絡まれた私を助けてくれたのが刻だった。
その時にやりと笑った刻に、不覚にも恋に落ちてしまったのが私だ。


チョコは、一応つくってあったりする。


「・・・はぁー」


何度目か分からないため息をつく。
時計を見ると、午後3時を回っていた。


あああ、どうしよう。

今年渡せなかったらもう来年はないし、ましてや会うことすらままならないんだろうな。

両手に持ったチョコの包みとにらめっこして1時間。
そろそろ学校が終わる。


ピンポーン、


家のインターホンが鳴った。


「っはーい!」


弾かれたようにして玄関にチョコを持ったまま走る。
しまった置いてくればよかった。


玄関を開けて、


「ヤッホー」


閉めた。
なんでいるんだてかなんで私んちが分かったんだ。


「ちょ、それはないでショ久遠センパーイ」
「なんでいるの!?」


ドアの隙間から向こうにいる刻を睨みつける。
けど涼しい顔で流された。


「なんで、って・・・チョコをもらいに?」
「っはぁ!?」
「久遠センパイチョコ作ってるデショ?」


いや作ってるけども!!
あなたに作ったなんて言えない!!


「とりあえず上がらせてくだサーイ。外寒い」
「何様だ」
「オレ様」


がちゃり、とドアを開けたら、刻は倒れこむようにして私に抱きついてきた。


「ちょ、おい、刻」
「あ、コレ?コレチョコ?」
「おいいいぃぃいっ」


気づいたら手に持っていたチョコはいつのまにか刻が奪っていて、慌てた私はバランスをくずして後ろに倒れそうになる。

え、うそ、


「・・・っきゃ、」
「っと、危なー」
「っ、」


ひんやりと背中にフローリングの冷たさが伝わった。
刻の顔が目の前にあって、至近距離に戸惑う。
心臓が早鐘をうってうるさい。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


なによ、なにこの沈黙。
気まずくなって目をそらせば、チョコを持ってないほうの手で無理矢理上を向かされた。


「・・・なによ」
「食べちゃっていーですカ?」
「た、食べればいーよ。まだあるし」
「・・・ほんとに?」
「う、ん・・・っ!?」


一瞬なにがどうなってるのか分からなかった。

唇に触れたあたたかいもの。

一瞬なにかぬるりとしたものが私の舌に絡まって、次の瞬間にはにやりと笑った刻の顔。


「・・・・・・へ、」
「ごちそーサマでした、センパイ」
「な、な、・・・!」
「甘かったですヨ」


来年もよろしくお願いしマス。


そう言って笑った刻に、思わず頷いた。



来年も再来年も
(オレのためだけに、ね)

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