「っい、」
「我慢してください」


小さく顔をしかめて小さく声を上げるネジさんに、消毒液を塗った布を押し当てる。
擦り傷をたくさん作って任務から帰ってきたネジさんに、私は用意していた救急箱をフルに活用していた。
ネジさんは複雑そうな顔をしていたけど、そんなの知らない。
こんなのただのかすり傷だから心配しなくてもいいなんて言ってたけど、そんなの知らない。


「過保護すぎだ」
「まさか。ちょうどいいくらいです」
「忍だからこんな傷、日常茶飯事なんだぞ」
「次の任務に支障が出ないためにも手当てはしておくべきです」
「・・・、」
「なにか文句でも」
「あるにはある。が、どうせ聞かないんだろう」
「はい」


即答した私に、ネジさんは小さなため息をついた。

だって心配なんだもん。
どんな小さな傷でも、私は見てられない。

それがネジさんにとっておこがましい行為でも、ただの私の自己満足でも、なんでもいい。
傷のガーゼになって癒すことはできないけど、その手伝いはできる。
小さな力しか持ってない私の唯一のできること。
少しでも彼の助けになりたい。想いはただ、それだけ。


「あまり無理しないでください」
「・・・してるつもりはないが」


あと一箇所。
ここを手当てすればまた、彼は修行に出てしまうのだろう。

真っ白な目が、私の手を見ていた。
きっと目は合わない。


「あんまりストイックなのも頷けませんね」


少し嫌味っぽく言えば、ネジさんは私の手から視線を上げた。
咄嗟に下を向く。
その瞳では私の心もなにもかもを見抜かれそうで、それを望んでいるのに、でも怖かった。

私は臆病だ。


「・・・頑張りすぎないでください」
「・・・久遠、オレは」
「・・・?」
「どんなに頑張りすぎても、どんなに大きな怪我を負っても、きっと帰ってくる」
「・・・え、」


帰ってきたらお前が、久遠が、その傷を癒してくれるだろう?

そう言って微笑んだネジさんに、私はこみ上げる涙を抑えることが出来なかった。
そんな私の頭を撫でてくれる彼は、どこまでも優しい。


「ネジさん、」
「ああ」
「ネジさん」
「なんだ」
「ネジさん、好きです」
「ああ、」


背中に彼の大きな腕が回った。
抱きしめてくれた彼からは、少し血の臭いがした。


オレもだ。


呟いた彼の言葉は、さらに私の涙腺を崩壊させるには十分だった。


ガーゼになれない天使
(こぼれた涙を救い上げて、)
(彼はまた笑った)

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