風影になると、我愛羅は言った。
最初こそはショックで、わたし達みたいな存在を存在しないかのように扱ってきた風影にはならないでほしかったけれど。
変わろうとしてる、変わりたいと願う我愛羅に、置いて行かれるのは嫌だった。
だからわたしも・・・
「・・・なにしてる?」
「我愛羅・・・」
岩壁の上に立って夜空を見上げていたわたしは、我愛羅の声がするほうを振り向いた。
・・・そして、驚いた。
そこには、今まで見たこともない表情をした我愛羅がいた。
「探した、」
「ごめんなさい」
「急にいなくなるな」
飼い主に捨てられた動物のような、泣きそうな顔。
なにかを手繰り寄せるような、必死な姿。
人間らしい、我愛羅の姿。
申し訳ない気持ちよりも、嬉しいという気持ちが勝ってしまって。
思わず笑ってしまった。
「・・・」
「ふ、ごめん、我愛羅」
じとりと睨んでくる緑の瞳。
もう、それすらも愛しい。
我愛羅が、わたしを必要としてくれている。
それだけでわたしは、今までにない生を感じることができる。
生きていてよかった、死ななくてよかった、・・・あの時殺されなくて、よかった。
わたしは我愛羅を支えたい。
応援したい。
できれば傍にいて、ずっと。
わたしの生きる意味になってほしい。
それが、我愛羅であってほしい。
そうあるならば、もう・・・
カッターナイフなんて、いらないから。
「それを捨てに、わざわざここまで来ていたのか」
「目の届くところに捨てたくなかったの」
そうか、と我愛羅は小さく呟いた。
きっと、分かってくれている。
「さよなら、・・・ありがとう」
そう言って投げたカッターナイフは、綺麗に弧を描いて闇の中に溶け込んだ。
少しだけ、涙が出た。
「ことづけくらいはしていけ」
「うん、でも、わたしが我愛羅を必要としてることわかってるくせに」
・・・黙れ。
小さく呟いた我愛羅の顔が、少し赤かったことは見なかったことにしていてあげる。
だから、ずっと傍にいて。
「わかってるくせに」
(それから、3年の時が経った)