なんてことはない。
ただ、死んだだけだ。

動かなくなって、笑わなくなって、泣かなくなって、目を開けなくなった。
あ、違うか。
少しあけられたままのまぶたが、まばたくことはないのだ。

絵と同じだ。

一度描かれた絵は、動くことなく額におさまる。ただそれだけ。


「・・・久遠、」


カカシ先生がぽつりと呟いて、彼女の顔に触れた。
サクラは泣いていて、ヒナタも泣きじゃくって、いのも、テンテンも。

血の海の上に転がる、彼女の"死体"。
先日まで、コロコロと表情を変えて笑ったり怒ったりしていた、"死体"。
もう動かない。


「・・・なんで、死んじまうんだってばよ・・・!」


ナルトが悔しそうに木の幹を殴って、キバが座り込んで、シノはどこを見ているか分からないけどたぶん泣いている。
シカマルとネジは遺体に背を向けているし、チョウジとリーは鼻水を出しながら泣いている。

・・・ボクは。


涙がでない。
こんな時、なにしていいのか分からない。


「・・・立派な忍だった。久遠、どうか安らかに・・・」
「、」
「・・・サイ?」


彼女のまぶたを閉じようとするカカシ先生の腕を無意識に掴む。
ダメだ、それをしたらダメだ。
もう目を開けないんだ、


「・・・サイ」
「・・・すみません」


言動と行動は真逆で、ボクはまだカカシ先生の腕を離せない。
彼女は、笑った顔が一番似合う。


「久遠は、笑った顔が似合うでしょう?」
「サイ?」
「だから、目を閉じたらダメです」
「サイ、」
「開かなくなる、永遠に」
「サイ!」


もうやめろよ!
頬に若干の痛みが走って、ボクの体は少しだけ浮いた。

キバが肩で息をしながら泣いていた。
女性達の嗚咽が酷くなる。
泣かないでください、だって久遠はみなさんの笑った顔が好きだった。


「・・・サイ、久遠は死んだんだ」


カカシ先生が、悲痛な面持ちでボクの目を見て言った。


「分かってます、そんなくだらないこと。ボクはそんなにバカじゃな―――」


今度はさっきより何倍も強い痛みが頬を直撃する。


「てめぇっ!なんでそんな言い方しかできねーんだよ!!」
「キバやめろ!」
「久遠は、久遠はなっ、サイが、お前のことがっ、好きだったんだっ!!」


そんなの知るわけない。
だってボクには、感情がない。

知らない。
知りたくもない。

あの笑顔が、見れなくなる明日なんてそんなの、分かりたく、ない。


「っ久遠・・・!」


ああ、なんで。
ボクも君も遅すぎる。

赤く染まった死体を抱き締めても、君はもう冷たくて。

頬に伝ったものも、ひんやりとしていた。


夕べの彼はただ泣いた
(君の笑った顔が、涙でぬれた)

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