風影になる。
そう言った時、久遠は鈍器で殴られたような顔をした。
それから小さく小刻みに震えだし、顔面蒼白になった。
それでも無理矢理笑って、
すてき、
と、小さく頷いた。
「嘘をつくな」
「嘘じゃ、な・・・」
「すてきだと思うのか」
「・・・う、ん」
俺は、まだ、信用されていないのか。
少し癖のある髪の毛をなでれば、久遠は左の手首を強く握った。
「・・・風影は・・・っ、わたしの一番嫌いな存在だった・・・!」
「・・・ゆっくりでいい」
親も身寄りもないわたしが連れていかれたのは、奴隷という生業。
そんなもの、存在するべきじゃないのに。
こき使われた、飽きられたら捨てられて、また拾われて捨てられて。
いつしか、飾りにもならない不良品。
自傷少女なんて邪魔なだけ。
風影は、そんな現実を知っていながらも、国を強くしたいがために無視した。
死にたかった。
でも、できないの。
死ねないの。痛いの。恐いのっ、
「、ん・・・!?」
「・・・、」
久遠のなかには、ぬぐってやれない傷がある。
俺だからわかる、ひどく冷たい、そんな世界だ。
だからこそ唇を重ねた。
俺がいる。
俺というぬくもりを感じろ。
「・・・っ、我愛羅・・・!」
ボロボロと涙を流す久遠は、やはり綺麗だった。
どんな宝石よりも、綺麗だった。
涙ならぬぐえる。
「泣くな」
「・・・っん、うんっ・・・!」
「俺がいるだろう」
「うんっ・・・!」
傍に、いろ。
「傍にいてくれ」
「どこ行くの?」
(どこにも、行くな)