任務から帰ってきたとき、部屋から血生臭いにおいがした。
独特な、鉄のにおいだ。
ついさっき嗅ぎすぎて鼻が麻痺したばかりだというのに、こんなにも特別なのか。
「・・・久遠」
「・・・あ・・・我愛羅、」
あの錆びれたカッターナイフをもてあそんでいた久遠が振り返る。
ぞっとするほど、綺麗だった。
「ごめん、臭いでしょ」
「いや」
「・・・水と、バケツある?」
「・・・ああ」
手渡せば、久遠は未だに止まらない血が出ている手首を水につけた。
「死ぬぞ」
久遠は答えなかった。
ああそうだ、こいつは死を望んでいる。
生を感じるこの行為で、そのまま死にたいと。
「久遠、」
「・・・うん」
青白くなってきた久遠の手首を水から出し、そのまま引き寄せた。
「・・・嫌じゃないの、こんな汚れた、」
「嫌なら嫌と言っている」
死のうとする久遠を止める権利なんて俺にはない。
それでも、失いたくなかった。
まだ、その目を見ていたい。
俺と同じ目を。
「・・・さみしかったよ」
「ああ」
ほんとだよ。
流れた涙には、気づかないふりをしてやろう。
嫌なら嫌って言ってるよ
(むしろ綺麗だ、お前のすべてが)