「ばいばーい」


小さく呟いて、振り返らなかった。
もういいのか、と聞けば逆にこれ以上なにをすればいいのと首をかしげられた。


「里を抜けます、って挨拶しろって言うの?」
「・・・それもそうだな」


後悔はないのか。
本当にオレについてきてしまっていいのか。
今ならまだ戻れる。
オレが我慢すればいいだけの話だ。


「わたしが我慢できない」


愛しさが込み上げた。
手を強く強く握って、引き寄せて、強く強く抱き締める。

オレをこんなに溺れさすなんて、こいつはとことん据わっている。


「離さねーぞ」
「どんと来い」
「なんと言われても、帰りたいと泣かれてもだ」
「言わないよ。サソリが居ればそれがわたしの帰る場所」


月のない、しんと寂しい夜空の日。


オレはこいつの手を握ったまま、唇を重ねた。


「久遠、」
「サソリ、」



君が愛しい
(愛してる)

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