幼い頃。
まだ、たくさんの夢を見て。
たくさんの夢を持っていた頃。
何度暴言を吐かれようが、
何度逃げられようが、
何度冷たい目で見られようが、
希望を捨てなかったあの頃。
いくら春を待てども、やはり春など俺には来なかった。
巡り巡ってやってくるのは、いつの季節も冬ばかりで。
いつしか凍えてうずくまる、そんなことさえもできなくなった。
血で真っ赤だった手を、もっと朱に染めた。
俺の存在理由は、他者を殺すことにある。
他者を殺すことで、俺は生を実感できる。
「・・・そういう考え方もあるんだ・・・」
拭ききれなかった水を髪の毛からしたたらせながら、久遠は軽蔑することもなく呟いた。
血で汚れていた衣類は処理し、新しいものを手渡した時。
久遠は最初着ていたものからあのカッターナイフを取り出した。
カッターナイフは、血で錆びれていた。
わたしの生きる意味。
そう言って、久遠は少しだけ微笑んだ。
無機質だった表情に、色が宿った瞬間だった。
「わたしも、我愛羅みたいに強かったらそうしてた」
「するな」
「・・・、・・?」
何を、言ってるんだ俺は。
人をたくさん殺めた俺の言うことではない。
・・・それでも、
「・・・お前は、久遠は・・・他者の血で汚れては駄目だ」
俺みたいに。
「・・・そう、だね」
「・・・」
・・・間違ってなどいない。
俺が選んだ道は間違ってなどいない。
なのに、何故。
久遠を思うと何故、こんなにも。
同じことをしてほしくない、なんて。
「・・・来るよ」
「・・・?」
「我愛羅には来るよ、桜が咲く」
待ってればいいよ。
静かに呟いた久遠の身体が傾いて、俺の膝に頭が落ちた。
「・・・、寝たのか?」
「・・・・・・」
小さな寝息が聞こえた。
たどり着く春を待っている
(待ってみようか、お前と共に)