「がっ…!我愛羅だぁ!」
「ひぃっ」
「逃げろ!」
ああ、これが彼の“理由”。
冷たく、怒りを含んだ悲しい瞳の。
静かに扉を閉めたとたん、テマリとカンクロウは無言で自室に足を運んだ。
「・・・こっちだ」
握られたままの手をひかれて、小さな部屋に入った。
殺風景な部屋だった。
愛に飢えた我愛羅みたいに、さみしい。
「・・・すてきな、部屋」
「・・・気遣いなどいらん」
「ほんと」
「・・・、」
いくつかの写真たてが目に入った。
顔のよく似た女の人ふたりが、優雅に、優しく、微笑んでいた。
我愛羅を見る。
写真たてを見つめる我愛羅は、・・・
「きれい」
「・・・、は」
「今までで見てきた目の中で、我愛羅が一番きれい」
我愛羅は一瞬驚いたように目を見開いて、またすぐにふせた。
「・・・風呂に入れ。服も新しいのを用意させる」
ひょうたんみたいなものを床に置きながら、我愛羅は小さく呟いた。
でも、わたしは分からない。
お風呂の入り方なんて知らない。
洗ったことはあっても、それに入ることは許されなかった。
いつも入るのは、冷たい冷たい湖。
「・・・わかった、」
きっとなんでもいいんだ。
わたしはまた、
ぬいぐるみのように我愛羅の隙間を埋める道具になる。
そしてまた、捨てられる。
それでもいい。
今はただ、我愛羅の傍にいて。
同じ目をしたあなたを捨てられるまで見ていたい。
「・・・久遠」
「・・・、なに、」
「これで体を拭け」
そう言って渡された真新しい体拭きは、日の光を浴びて少し温かかった。
「ありがとう」
いつ捨てられるか分からないそんな中で。
わたしは、嘘をつく。
「おふろ、楽しみ」
少しでも長く、あなたの目を見ていたいから。
真昼の月と少女の嘘
(嘘で繋ぎ止めていられるなら)