「どうせお前も逃げるんだろう」
そんな言葉が投げかけられて、
気づけばわたしの目の前は真っ暗になっていた。
確か顔を上げたら赤髪の、緑の瞳が綺麗な男の子がこっちを睨んでいて。
その悲しげな、怒りに満ちた瞳に少しだけ見惚れていたんだ。
ああ、もう少しだけ見ていたかったのに。
我愛羅、やめろ!
殺すな!
ああ、わたし殺されるのか。
やっぱり恐怖なんて微塵も感じなくて。
やっと念願が叶うんだな、なんて思ったら少しだけ泣きそうになった。
あれ、おかしいな。
もう、涙なんてとっくに枯れたはずなのに。
あまり身動きの取れない真っ暗な世界の中で、わたしは左の手首を強くにぎった。
少しだけ口端を上げて。
目を瞑ったその時に、また急に視界が開けた。
「お前、」
気づけばまた目の前には赤髪の、緑の瞳を持った男の子がいて。
少しだけがっかりした。
男の子の瞳はもう、怒りも悲しみも映してなかったから。
少しだけ、驚いたように目を見開いて、男の子の側にいた大きな扇子を持った女の子も、とんがり帽子を被った男の子も、わたしを見ていた。
汚い、わたしを見ていた。
ぱきん、と音がした。
わたしを縛っていた金具が見事に砕け散って、サラサラと砂に還る。
街の人たちは、いらないって言う。
紅に染まったわたしはいらないって言う。
どうせ買っても不良品。
置いておくだけ無駄。
飾りにもならない。
飾りにすら、ならないんだよ。
「・・・お前、名は」
「・・・え、」
「名前はなんだと聞いている」
久遠。
「俺は我愛羅。我を愛する修羅だ」
来い。
そう言って差し出された手は、酷く冷たかった。
ここには言葉がない
(その瞳に映すものは)