微笑ましげに細められる瞳が、初めて怖いと感じた。
隣であぐらをかいていたサソリさんが、不機嫌を露にして顔をしかめている。
あたしは注がれるいくつもの視線から、逃れるように彼の背中に隠れた。
今回は何も言わずに、むしろ庇うように動いてくれるサソリさん。
平和すぎて忘れてた、ここは孤児院だってこと。
「・・・きもちがわるいな」
オビトが腕を組みながら呟く。
あの子がいい、この子がいいと抑えることのない声が直接聞こえてきた。
目を合わせないように、必死に俯く。
「――くん、」
先生が男の子の名前を呼んだ。
何も知らない子どもは、不思議そうに首をかしげながら先生のところに駆けて行く。
嬉しそうにその子どもを抱き上げて笑う夫婦には、きっと子どもを授かることができなかったんだろう。
「・・・あさってくらいには、この院からいなくなるんだろうな、うん」
デイダラの声が、酷く重たいものに聞こえた。
やっと、みんなと一緒になれたのに。
また離れ離れになる恐怖を味わうなんて、もう二度とごめんなのに。
大人の目に留まらないよう、必死に俯いていると、小さな手があたしの頬を包んだ。
「久遠」
「・・・、イタチ・・・?」
優しく微笑まれる。
つい癖で笑い返せば、イタチはさらに笑みを深めてそのまま頬を撫でてくれた。
「だいじょうぶだ」
オレたちはお前の前からきえたりしないから。
根拠なんてないけど、酷く安心するその言葉は、恐怖に苛まれていたあたしの心を簡単に開放する。
隣でサソリさんが不器用に頭を撫でてくれて、デイダラも笑ってくれて。
みんながいる。
飛段も角都も、オビトも長門も小南もゼツも、鬼鮫だって。
いつだってそのぬくもりに触れて、一秒でも長く、永く。
だから、神様。
どうかあたし達を、離れ離れになんてしないでください。
後日、一人の男の子が院から消えた。
夫婦は嬉しそうに、男の子は少し寂しそうに院を振り返りながら、歩いていった。
その後姿が、どうかあたし達の中の誰かであることがないように、祈った。