今日は朝から風が強かった。
古くはないが、新しいわけでもない孤児院は強風で微かに揺れる。
まだ幼い子ども達は不安げに身を寄せあいながらおもちゃをいじっていた。
だが。
「イタチ〜こわ〜い」
「・・・うそをつけ」
かぜがこわい、と口元に笑みを浮かべながらくっついてくる久遠。
嘘だ。絶対に嘘だ。
「どさくさにまぎれてくっついてるだけだろう」
「たはっ☆」
まぁ、べつに、嫌ではないからいいが。という言葉は胸にしまって、腕に絡み付く久遠を振り払わずに放っておく。
ガタガタと窓が鳴る。
不安も限界に達した子どもが、何人か泣き出した。
つられて泣く子どものおかげで、風に合わせてますます騒がしくなる。
「うるせーなクソが」
不機嫌そうに、サソリが呟いた。
不機嫌なのは大方、風と子どものうるささと・・・久遠がオレにくっついているからだろう。
優越感を感じて笑ってしまえば、たれ目がちの瞳で睨まれた。
「・・・チィ・・・おい、久遠」
「はいっ」
「おまえこわくねーんならイタチからはなれてやれ」
オレがだきしめられてやる、そう言ったサソリに瞳を輝かせる久遠。
すかさずオレは久遠の肩に手を回してどこにも行かないように固定した。
単なる独占欲だってことは、自分が一番わかってる。
サソリは舌打ちをして、久遠は不思議そうに、だが嬉しそうに笑った。
「これはあれですね、あたしのために争わないでっ、なフラグですかね!」
「だまれ」
「いやんひどい」
イライラと貧乏揺すりをするサソリ。
少し可哀想に思えたが、譲るつもりは毛頭ない。
譲ってしまえば、後悔しかないのはわかっているのだから。
「みけんのしわがとれなくなりますよー?サソリさんっ」
そんなオレ達の思いを微塵も感じていない久遠は、ただ楽しそうに笑った。