「―――・・・ちゃん、久遠ちゃん・・・」


誰かがあたしの名前を呼んで、あたしの体を揺さぶった。
"久遠ちゃん"?
そう呼ぶ人はいなかったはず。
しかもなんだか声が幼い・・・?

うっすらと目を開ける。
ぼやけていた視界がはっきりしてきて、あたしの目には不思議そうに目を丸くした小さな男の子が映った。

・・・ん?


「え、あー・・・え?」
「どうしたの?もうおひるねおわったよ」
「お、おー・・・ひるね?」
「? うん」


覚醒してきた頭。
あたしはバッ、と自分の手足を見る。
目に映ったのは、短くて小さくて細い手足。

あたしは息を呑んだ。


「ね、ねぇボク」
「なに?」
「いま、なんさい?」


ううう何だかしゃべりづらい。
噛みそうになりながら、あたしは男の子に問う。


「? よんさいだよ?なにいってるの久遠ちゃん。へんなのー」
「(まままままさか・・・!?)」


ここで疑惑が確信に変わった。

あたし、また、転生しちゃったわけですか!?

思わずため息をついた。
確か、NARUTOの漫画が読みたいがためにサボって本屋行って・・・事故にあって死んで・・・あれ?
二回目の転生のはずなのに、以前どこでなにをしてたのか思い出せない。


「久遠ちゃん?」
「っ、なんでも、ない」


そう言って笑えば、男の子も安心したように笑って積み木で遊び始めた。

・・・うーん。ダメだ。思い出せない。
思い出そうとすると、霧がかかったように記憶がモヤモヤして、どうしても思い出せない。
とても、とても大切でいとおしくて、そして哀しい記憶だったはずなのに。


「久遠ちゃん、つみきやらないの?ひとりじゃつまんない」
「あっ、うん、やる」


男の子は嬉しそうに笑った。
いかん。かわええじゃねぇか。

積み木を組み立てようと手を持ち上げた時、なにか白いものがポトリと落ちた。


「・・・?」


なんだろう?

手にとって眺める。
粘土でつくられた、小さな手のひらをサイズの、鳥。

頭がズキリと傷んだ。


"・・・これを、護身用に持っておけ、とのことだ"

「・・・、ぁ・・・!」

"・・・またな!"


あの、あの黄色の頭とオレンジの仮面は。

一気に記憶がフラッシュバックする。
あたしは、あたしは、

あたしは、確かに"あそこ"に、居た。
サソリさんに拾われて始まった暁での日々。
デイダラをからかって、イタチさんに頭を撫でてもらって、飛段とじゃれて、角都や鬼鮫に呆れの目を向けられて、オビトに連れられてたまに訪れた雨隠れの里で長門や小南やゼツと談笑して。

すべてを鮮明に覚えてる。
死ぬ間際、この唇は確かにオビトのそれと触れた。
オビトは哀しそうに顔をゆがめて、


「・・・っ、!」
「・・・久遠ちゃん?」
「っ、サソリさ・・・!」
「え?」


心配そうに男の子が顔を覗きこんでくる。
その視界のすみっこに、白いネコと黒いネコが映った。
純白の毛並みと、漆黒の毛並みは、ゼツを思わせて思わず凝視する。

そして、そのネコを抱き上げた男の子が笑って言った。


「このネコちゃんね、どっちも"ゼツ"っていうんだよ。へんだよね」
「ゼ、ツ・・・?」


なぁ。
ネコが鳴く。
差し出された白いほうのネコを抱き上げると、ネコはおとなしくあたしの腕に納まった。
せんせーがつけたなまえだよ、そう言って男の子はまた笑った。


『・・・ひさしぶりー』『遅カッタナ』
「え、」
『あれー?ボクらのこと忘れちゃった?』『久遠ハバカダカラナ。無理モナイ』


しゃ、しゃべった・・・
しかも、この聞き覚えのある声は・・・


「ゼツ・・・?」
『さっきそう紹介されてたじゃん』『相変ワラズノバカップリダナ』
「・・・うそ」


思わず白ゼツをおとしてしまった。
痛いーだのなんだの呟いているけど、知ったことじゃない。
なんで、ゼツが、こっちに、いるの。


「ゲハハハッ、あんまりらんぼーしてやんなよぉ?」


耳につく笑い声。懐かしい、聞き覚えのありすぎる笑い方。少し違うのは、声が幼いこと。
ふせていた目を、勇気をだして上げる。


「・・・飛段、あまりおおきな声でわめくな。園内にひびくだろう」
「どうかんだ。さっきからうるせーんだよ、おまえは。うん」


銀髪オールバックの男の子を叱る、マスクをした翡翠色の目の男の子と、小さな髷を頭のてっぺんで結った黄色い髪の男の子。

うそ、うそ・・・


「うっせーなぁ!ジャシンさまはそんなに心せまくないぜぇ?」
「オレたちはジャシンさまとやらではない」
「いつまでも宗教にこだわったちゃあうまくやっていけませんよ」


夢じゃないのか。
あたしは思いっきり頬をつねる。痛い。


「ざんねんだが久遠、これは夢などではない」
「現実よ」
「せっかく会いにきてやったんだ。もっとよろこんだらどうだ?」


仮面を外して素顔をさらけだしている男の子が、得意げに笑った。


「・・・よぉ。また会えたな」
「っ、サソリさん・・・!みんなぁ・・・!!」


駆け出して、大して身長も変わらないサソリさんの胸に飛び込む。
小さな手があたしの背中に回って、そのまま優しく撫でてくれた。

サソリさん、だ。

本物の、サソリさん。

誰かの手があたしの頭を撫でた。
後ろからあたしを抱きしめる誰か。頬をつねる誰か。髪の毛を弄ぶ誰か。

すべてがすべて、懐かしくて。
もう感じることのできなかったはずのぬくもりだった。


「またな、って、言ったろ」
「っはい・・・!!」


サソリさんは、あたしの頭に手を回して笑った。

みんなが笑う。あたしも笑った。
こんな、こんな幸せなこと、ない。

これはもう、アレをやってもらうしかないじゃないか。


「じゃあまずてはじめに・・・ふんでください!!」
「「「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」」」


一瞬の沈黙が流れた。舌打ちするサソリさん。

あ、あれ。あたしなんかした!!?


「感動のシーンがだいなしだぜ、うん」
「いくらオレでもなえたぜぇ?久遠ちゃんよぉ!!」
『久遠のバカー』『ダカラ、久遠ノバカップリハ顕在ダト言ッタダロウ』


デイダラと飛段とゼツが言いたい放題あたしの悪口を言う。
頭上から、いくつものため息が聞こえた。

やらかしちゃった感満載です。

引きつる笑み。
サソリさんがあたしの頭をつかんで胸元に引き寄せた。

トクン、トクン。

心臓が動く音が聞こえる。
はろー、はろーって、生きてるよって、内側から叩いてる。


「・・・ちゃんと生きてる。ふまなくても、実感できたか?」
「・・・はい!!」


呆れ顔だったメンバーの顔が、また笑顔に変わった。


「やっぱりお前は、笑顔がいちばんにあってる」


しばらく、あたしは笑顔をひっこめることができなさそうだ。

でもそれで、みんなを笑顔にできるのなら。それでいい。あたしはみんながいるなら、笑っていられる。
苦しくても、哀しくても、今度こそ。

今度こそ、あたしはみんなと一緒に乗り越えて生きたい。

はろー、はろー。

あたしは生きています。


「みんなあいしてる!!!」



心からの笑顔で
ありったけの愛を

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