狂わない歯車
"・・・暗い暗い闇の中、迷子になってるよ"
ほんのわずかな時間、ともに過ごしたあいつが言った言葉。
それは、イタチにもオレにも向けられているような言葉だった。
あんな別れ方をしてから、オレは幾度となく思い出していた。
あのままオレ達のアジトに久遠がいたら、オレ達はなにか、変われたのだろうか。
(・・・そんな考えは、くだらねぇ)
変わろうが変わらまいが、オレはオレで、オレの目的はイタチを殺すこと。
「その装束・・・お前は・・・それに、・・・久遠」
「ん、久しぶりサスケちゃん」
「え!?久遠ちゃんいつの間にサスケくんと知り合ってたんですかぁ!!?」
その呼び方はやめろ。
吐き捨てるように呟けば、久遠は以前とまったく変わらない笑みを見せた。
・・・暁の数名は命を落としたと聞いたが、見るかぎり仲間想いの久遠が、随分と割り切れている。
「んー・・・やっぱ似てるわイタチさんと!」
「トビそれ禁句」
不愉快なことを言ってきた仮面野郎を睨み付ける。
仮面野郎はオレの眼光におののき、久遠を抱いて後ずさった。
腕の中で久遠が小さくため息をついている。
同時に、真上に気配を感じた。
咄嗟に口寄せした蛇で爆発を凌ぐ。
いつかオレ達のアジトに乗り込んで久遠を連れ帰った、あの髷野郎だ。
「・・・敵、か」
「・・・ごめんねサスケちゃん。いつか違うところでイチャイチャしようね」
「いや拒否する」
それに、そちら側にいるってだけでお前は敵だ。
オレは刀に手をかけて、地面を蹴った。
***
木ノ葉にとって、あたしという存在は有益な情報源でしかない。
角都が死んだあと、カカシ先生は無言であたしの腕を掴んだ。
途端、なにかに弾かれたようにカカシ先生の体が宙を舞う。
混乱するあたしの頭に、愛してやまないあの人の声が聞こえた気がした。
『逃げろ。走れ』
「っ、サソリさん・・・?」
声は聞こえなくなった。
がむしゃらに地面を蹴りながら、涙が止まらなかった。
目前にせまったオレンジの仮面の男の腰に思いきり抱きつく。
驚いたように目を見開いたデイダラが、心配そうにあたしを覗き込んだ。
「どうしちゃったんスかぁ?久遠ちゃん」
「しっかりしろよ久遠、どうしたんだ?うん」
なんで、こんなに温かい人達が、死ななければいけないんだろう。
それでも刻は止まることを知らないかのように進んで行く。
久しぶりに会ったサスケは、原作通り斬りかかってきた。
容赦はない。
デイダラに抱かれて宙を舞う。
「先ぱーい!後ろ!!後ろ!!」
「くっ!」
「、わっ」
爆風に紛れて飛んだあたしをキャッチして、トビは安心したようにため息を吐き出した。
「久遠!お前はどっかに隠れてろ、うん!」
「・・・う、ん」
もう、目の前で大切な人がいなくなるのは嫌なのに。
回りだした歯車を狂わす術は、なかった。