見えたものは
守りたいものができた。
それがオレにとって利益になることだとは到底思えないが、嫌な気にはならなかった。
何故か。
それは、オレにとっての守りたいものが久遠だから、としか言い様がないのだろう。
憎悪の塊でしかない、人外のもの。オレはオレを、そう思う。
人の心臓をことごとく奪い、自分のものにし、生き永らえる。
それを悪いとも思わないあたり、もはやオレは"人間"には戻れない。手遅れなのだ。
「角都ってよく見たらイケメンだよね!ジジイだけど」
「ゲハハハハァ!一言余計だろ久遠ちゃんよぉ?」
いちいちイラついていた時を思えば慣れたもので、こいつらのバカさ加減もスルーするスキルを身に付けた。
今日は、二尾を狩ることに成功した。
飛段の長ったらしい儀式を久遠には見せたくなかったが、久遠は首を横に振った。
大丈夫と小さく呟いて、オレのコートの裾を握りしめながら、久遠はじっと飛段を見ていた。
死にゆく二尾を見ていた。
「・・・貴様ら、いい加減床につけ」
「角都は寝ないの?」
「見張りだ」
「あんだよツレねぇなー!久遠こっちきて一緒に寝ようぜぇ」
最近、ごくたまに、飛段のバカさ加減が羨ましくなる時がある。
オレは長く生きてきたから、暁の誰よりも忍の残酷さを知っている。対処のしかたも心得ている。
だが、久遠がくるまで愛などというものを向けられることはなかったオレにとって、小さな変化はただの戸惑いでしかなかった。
いろんな物事に聡くなったからこそ見えてくるものがあるし、疑り深くもなる。
飛段のように、簡単に侵入を許さないオレの"心"さえも、久遠は・・・
「ありがと角都。おやすみ!」
「・・・ああ」
だから気づいている。
お前が悲しそうに笑うことも、切なそうに眉を寄せるのも。
まるで抗えない"なにか"に必死で抗おうとしていることも。
オレは長く生きすぎた。
理解しなくていいことも、たやすく理解してしまう。
「・・・おやすみ」
そしてその"なにか"に気づいた時、オレはここにいるのだろうか。