サソリさんが、死んだ。

さっきから視界がぼやけて、過ぎ去る景色も見えにくい。
守るって、守りたいって、そう決めたあたしの小さな覚悟は、サソリさんの忍としての大きな覚悟を前では、何も為さなかった。

すごく、悔しい。


「・・・見ツケタ」「本当だ」


ゼツの肩越しに、仁王立ちしているふたりの影が見えた。
あの大きな鎌、飛段だ。そして、あの角ばったケースは、角都・・・


"笑ってろ"


ダメだよサソリさん、あたし、


「角都、飛段、久遠は頼んだよ〜」「リーダーカラ話ハ聞イテイルダロウ」
「ああ」
「任しとけって!ん、久遠、こっち来いよ」


あたしは駆け出して飛段に飛び付いた。

不自然に上がったままの口角が、固まったように動かない。
そんなあたしを心配そうな瞳で覗いてきた飛段は、優しく頭を撫でてくれた。

なんで飛段は、こんなときにいつも、驚くくらい静かになるんだろう。
こどもみたいなのに大人な飛段の優しさが、今だけは、辛いよ。


「・・・賞金首を狩りに行くぞ」
「ちょーい角都ゥ!待った!今日はどっかで休もうぜぇ?久遠も疲れたろ?なぁ?」
「え、あ、大丈夫!あたし大丈夫だしっ!元気もりもり!」


一瞬、角都の眉間にしわが寄って飛段の顔が悲痛に歪んだ。

取り繕ったようなあたしの笑みも、きっとバレてる。
それでもあたしは、笑わなきゃ。
償いになるなんて微塵も思わない、けど。


「・・・賞金の、ほんの少しくらいは小遣いとして、お前にやる」
「・・・ハァー?てめ角都!オレにはミジンコもくれねーじゃねぇかよ!オイ!」
「お前にやる金なんぞ微塵もない。行くぞ」
「ふっざけんなクソジジイ!」


言いながら、飛段はあたしの手を取って歩き出す。
ゆっくり、ゆっくり、角都が歩調を緩めて、時々あたしを振り返る。


「・・・ありがと」
「・・・ゲハハ、何のことだぁ?変な久遠だな」


ニカッと笑ってあたしの頭をくしゃくしゃにする飛段と、無言のままの角都に、あたしはもう一度小さくお礼を言った。

自然と頬が緩んだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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