随分トアッケナカッタナ。

ゼツが呟いた。
まるで、目の前の現実から目を背けるようにして、呟いた。

サソリの親指にはまっていた玉の指輪を拾う。
これからオレは"トビ"として、デイダラの相方となり、己が計画の事を進める。
直接は関わらなかったが、サソリとも、もう少し。
もう少し話せていればよかったのかもしれないな、と思った。

目の前の少女は、笑っていた。
サソリの頭を抱きしめ、涙を流しながら、口元は弧を描いていた。
不気味な光景だと、思えなかった。


「・・・久遠、」


声をかけ辛いのか、白ゼツが手をさ迷わせ、そして久遠の肩を掴んだ。
ゆるゆると久遠は振り返る。


「・・・行クゾ」
「・・・・・・・・・う、ん」


黒ゼツが差し出した手を握り、久遠は立ち上がった。
名残惜しそうにサソリの髪の毛を数回なで、何かを呟いてオレに向かって歩いてくる。
いつも強気で物怖じしない久遠が、いつもより小さく感じた。


「・・・これから、本格的に尾獣狩りが始まる。アジトにも戻れない。お前は、」


きっと戻らないのだろう、サソリがいなくなってしまったアジトには、もう戻れない。
それはこいつが言わずとも、オレにはわかっていて。
言葉の先は、言わなかった。否、・・・言えなかった。

こいつが、久遠が、あまりにも辛そうに笑うから。
その笑顔がリンと重なって見えたのは、オレの心にもまだ人の心があるからなのだろうか。

・・・いや、取り戻しつつあるのだろうか。
流されてはいけない。自分を殺せ。オレは何者でもない。存在しない。

オレは、"マダラ"だ。


「・・・比較的安心できる奴らとともに行動させる。異論は」
「、ない」
「ならゼツ、運んでやれ」
「えー誰のとこ?」
「角都と飛段のツーマンセルだ」


これ以上久遠といるのはよくない。
オレは久遠の顔を見ないまま顔を背け、出口に向かって足を蹴った。


「笑うから」


久遠が呟いた言葉。

ああ、運命とは、なんて残酷なのだろうか。
なんて、今さら、だが。

脳裏をちらつく赤の頭。
"暁"という組織の一員としてしか見ていなかったこの軽薄な関係を、いつの間に深めてしまったのだろうか。


"くだらねぇよな"


一瞬、本当に一瞬だけ、苦笑するサソリの声が聞こえた気がした。


「・・・ああ、本当に、」


くだらないな。

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