聞こえてきた怒声に、イタチ兄さんの腕の中で固まる。
イタチ兄さんは小さくため息をついて、あたしの背中に回った腕の力を一瞬だけ強めた。


「逝ってこい」
「・・・あれ?なんか漢字違いません・・・?」
「気にするな。逝け」
「気にしますからあああああ!!?」


思わず大声を出してしまったのがいけなかったのか(絶対そうだ)、荒々しく近づいてくる足音。
あたしは顔が引きつりまくって表情筋がおかしくなるかと思った。頬肉が痛い。

バン、と部屋のドアが勢い良く開く。
あたしをすごい形相で睨んだサソリさんは、ズカズカと歩み寄ってあたしの腕を乱暴に掴んだ。

いいいイタチ兄さんヘルプ!!

視線を向けるも、イタチ兄さんは無表情のまま。
う、裏切り者おおおおおお!!

そのままズルズルと引きずられるようにして部屋を出たあたしは、死の覚悟を持って最後までイタチ兄さんを目に焼き付けておいたのだった。


***


・・・気まずい。非常に気まずい。
さっきからだんまりなサソリさんを見上げるも、返ってくるのは鋭い眼光だけ。
なんだこれ泣いていいですか。


「旦那ァー」


ノックもなしに部屋に入って来たデイダラの真横をクナイが駆け抜ける。
一瞬にして真っ青になったデイダラちゃんかわっ!
チッ、と聞こえた舌打ちには、気づかないフリをしておこうそうしよう。


「っな、にすんだよいきなり!!旦那!!」
「るせぇ黙れクソダラが」
「い、いつもに増してキツイお言葉・・・デイダラ南無。あたしもそのうち天国行くから、ふたりでイチャコラしよーね」
「なんっなんだよこの温度差・・・!!うん・・・!」


あたしとサソリさんの温度差に気づいたデイダラは、小さく身震いしながら腕をさすった。


「てめぇ久遠、オレがなんでこんなキレてんのか分かってるだろうなぁ・・・?」
「すすすすいません!!!」


きっとあれだ、いや絶対あれだ、いきなり部屋飛び出してしかもあのサソリ様々の部屋のドアをぶち壊す勢いで開けちゃったからなんかドア少し壊れてたしヒヒヒ殺される・・・!!
人間境地に立つと、自然と笑いがこみ上げてくるものなんだねヒヒヒヒヒ。
ああ震えが止まらないよ。


「違ェ」
「え」
「まぁドアのこともある。それはお前に一生かかってでも直させればいいだけの話だ」
「ごごごごめんなさっ!!」


てめーはどこまでもバカだな、とサソリさんはあたしの腕を引いた。
いきなりのことに頭がついていかないまま、後頭部にサソリさんの手が回って、痛いくらいに抱きしめられる。
視界のすみで、デイダラが呆けているのが見えた。
うん、あたしも何が起こってるのか分からん。


「逃げるな。泣くならオレの前で泣け」
「は、」
「あんな目に涙溜めて出て行きやがって。バレバレなんだよバカが」
「!」


サソリさんの胸に顔を押し付けられて視界は真っ暗だった。
いつもより低い声のサソリさんにさっきまで抱いていた恐怖は、今はもう微塵もなくて。
ただ、なんとも言えない温かなものが胸中を渦巻いた。


「っ、いつまで抱き合ってんだよ、うん!!」
「う、わ、・・・!」


じぃんと広がった温かいものの余韻に浸っていると、今度は反対側から腕を引っ張られて違う匂いが鼻腔を掠める。
これは、デイダラの粘土の匂い、?


「は、てめーには関係ねぇだろクソダラが。勝手に部屋ン中入ってきやがって。久遠離せ」
「かっ・・・!、別にオレは用無しに旦那の部屋なんか来るわけねーだろ!うん!」
「じゃあさっさと用件言ってとっとと出てけバカダラが」
「オイラはデイダラだ!」


あたし、デイダラに抱きしめられてるんだ。
理解したのは、背中に回った彼の腕を感じてからだった。

それでもなんでふたりがこんなに喧嘩するのかは理解できなくて、疑問符を飛ばす。
そんなあたしに気づいたふたりは、おめーのせいだろうが!(うん!)と言いながら頭を思いっきり叩いてきた。
い、痛い・・・!


「でも最高!」
「「黙れ変態」」


精神的に天国に召されたのは、言うまでもない。

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