最期なんて言わないで
この国はいつも泣いている。
いつかのあいつは言った。
雨隠れと言われるだけあって、この国の降水量はどの国より多い。
別に、煩わしいと感じた事はない。
この雨は外部からの侵入者を感知する役割を果たしているのだから。
「・・・!」
「・・・どうしたの、ペイン」
見知ったチャクラをふたつ感じる。
口調とは裏腹に涼しい顔をした小南の脇をすり抜け、窓の外を見れば、少女を背負って走る仮面の男の姿。
今さら遅いと思いながらも、印を結んで雨を止ませる。
意図を汲み取った小南が、静かに窓を開けた。
ぎゃいぎゃいと騒ぐ声が耳に入る。
「ちょっといきなり現れていきなり担いでいきなり走り出すのやめてよね!」
「えーだってー久遠ちゃんに説明なんて必要ないかなーって!てへ☆」
「黙れよなんでトビ口調だよ黙れよ」
「ヒドッ!!おんぶしてあげてるのにー」
あのマダラを相手によくもまぁそんなことが言えたものだと、小南と顔を見合わせる。
依然ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、久遠を担いだマダラが塔の一番上まで来た。
小南が窓を閉め、一瞬の沈黙が訪れる。
刹那、それは破られた。
「っやーひこー!!!」
「っ!」
叫び、笑いながらオレに、正確にはオレではなくオレが操る弥彦の"死体"に飛び付いた久遠。
一瞬驚愕するが、マダラから話を聞いていたのを思い出す。
大雑把に言えば、こいつには未来も過去も筒抜けだということ。
嬉しそうに弥彦の腰に頭を押し付ける様子から、そんなことは微塵も伺えない、ただの平和ボケした少女だ。
「起きてる時では初めまして。小南よ」
「はい小南姐さん!久遠と申しあげやす!」
「・・・、」
どこに突っ込んでいいのか分からず、とりあえず笑みを浮かべた小南に久遠は可愛いです姐さん、と頬を染めた。
寝ている時は分からなかったが、どうやらやはり変態らしい。
変態、というかとにかくおかしい。
嬉しそう、というよりかは若干ニヤニヤとした顔つきでこっちを見てくるこいつに、少し後ずさる。
すると久遠は残念そうな顔をした。
「なんで逃げるのー?」
「・・・なんとなく身の危険を」
「ねぇそれ、あたしのイメージが少し心配になってきた」
「あながちリーダーの反応も間違ってないですよねー」
「そしてトビはいつまでトビなの?」
ここに暁のメンバーが居たら首を傾げたであろう台詞を言いながら、久遠は眉間にしわを寄せた。
本性を知っている我々としても、先ほどからのマダラの言動は頭が痛くなる。
化けの皮とは、よく言ったものだ。
「久遠」
ふいに、小南が口を開いた。
目をキラキラさせながら振り返った久遠に、小南は少し顔をしかめた。
「こんなことを聞くのは間違っているかもしれない。でもアナタは、過去も未来も知っていると言った。それは、私たちの最期も―――」
「小南、」
一瞬泣きそうな顔になった久遠を見たオレは、思わず小南の言葉を遮る。
マダラが壁に寄りかかり、俯いた久遠の頭を優しく撫でた。
その行動に、思わず小南と顔を見合わせてしまう。
あのマダラが。
「でもあたし、変えるって決めたからねぇ」
「・・・、そうか」
「・・・ごめんなさい、変な質問だったわね」
花が咲いたような綻んだ笑顔を見せた久遠に、サソリ達が必死になって奪還したがる気持ちが少しだけ分かった気がした。