「悠太!」 「あれ、祐希?って、ちょっとどうしたの……」 自分でも不思議なくらい苛ついた。悠太の名前を呼んで次の瞬間には戸惑う悠太の言葉を無視して、腕を掴んでその場から連れ去っていた。微かな煙草の匂いが鼻に付く。その匂いが不快で溜まらない。 漂う香りに嫉妬して 今日は漫研の部活の所為で悠太より帰るのが遅かった。特に何をしたわけでもないけど、長時間あまり知らない人と一緒にいるは結構疲れる。早く家に帰って悠太に抱きつて癒されたいな、なんて思えば疲れた足取りも自然と早くなる。でも、商店街を過ぎて、タバコ屋の角を曲がった所で聞き覚えのある声の楽しそうな会話が聞こえてきた。 「いやー、今日は助かったよ、悠太くん」 「いえ、どうせ帰り道の途中なんで」 「へー、家この辺なんだ?」 「もう少し先ですけど」 「じゃあ、今度ご挨拶にでも行こうかな」 「何の挨拶ですか。ていうか、煙草臭いのでそれはちょっと」 「おいおい、失礼な奴だな。じゃあ、悠太くんが俺の家に来るか?」 「ふふ、それもタバコ臭そうなのでちょっと」 煙草の煙が香る中、向き合って笑い合う二人の姿。悠太と、クビになったバイト先店長だった。普段は無表情の兄が滅多に見せない優しい笑顔。どうしてその人に向けてるのって思ったら身体が勝手に動いてた。悠太の名前を呼んで、腕を掴んで、ひたすら走った。香ってくる煙草の煙から逃げるように、ただ、ただ、走った……。 どれくらい走っただろう。いつの間にか家も通り過ぎていて、日も暮れていた。俺も悠太も息が切れている。辺りを見渡せば人気の少ない夜の川辺だった。悠太は息を整えながら俺をじっと見つめてきて、口を開いた。 「はあ、はあ、っ……、祐希、なんなの?」 「………………。」 風乗ってまだ微かに香る煙草の香り。悠太のあの笑顔と、それを向けた相手の事を思い出す。心の中がモヤモヤして煙っているみたいだ。なんで?なんで?どうしてなの?なんて疑問しか浮かんでこない。 「祐希……?」 何も言わない俺の方に優しい悠太は手を伸ばしてきた。でも、やっぱり悠太から漂うその香りが許せなくて、悠太を川へ突き飛ばす。バシャンって水の跳ねる盛大な音の後、ずぶ濡れになった悠太が尻餅をついていた。水滴の滴る前髪の隙間から驚いた悠太の瞳が俺を見つめている。 「ごめん……」 「うん……」 悠太が俺から視線を逸らして頷く。その姿になんだか凄く切なくなった。自分の衝動的な行為に少しだけ後悔する。ごめんね、悠太。って心の中で何度も呟きながら濡れた悠太の身体を抱き締める。そしたら、ゆっくりと悠太の冷たくなった腕が俺を抱き締め返してくれた。 「寒いでしょ」 「ごめん、悠太………俺…、」 「もう、いいよ。」 「だって……」 「大丈夫だから、そんな悲しそうな顔しないで」 「ごめん」 「ううん、俺もごめんね」 そう言って悠太から触れてきた唇は温かかった。離れた後向けられた表情は何時も以上に優しくて愛しい笑顔だった。水に濡れた悠太からはもう煙草の匂いはしてこない。 「…悠太は俺の、だよ」 「うん、知ってる」 もう一度交わした口付けは川の水の味がした。 ---------------------------------- フロイライン様へ捧げます。 相互リンク本当にありがとうございます! *祐悠。 *店長と仲良さげな悠太に嫉妬する祐希。 というリクだったのですが……… 色々と分かり難い感じになってしまってすみません; 煙草を切らした店長を煙草屋さんまで案内した後の会話だったり、 祐希が嫉妬した事に気づいて悠太が行動していたりって、余談です。 祐希が嫉妬した雰囲気と、祐悠な感じだけでも伝わってくれる事を祈って… こんな文章ですが捧げさせて頂きますので受け取って頂ければ幸いです。 フロイライン様と相互リンクができて本当に光栄です! これからよろしくお願い致します! フロイライン様の素敵なサイト【 Sleep sky 】 <<戻る |