今日の昼休み、いきなり呼び出しをくらい告白された。正直、呼び出しに応じるのも面倒だった。しかし女子のパワーというのは凄い物で、結局押し負けて連れて行かれた。まあ、結果的には断りましたけど。だって、俺は悠太と付き合っているわけだし。本気で愛しているのだから、他の子なんかに構ってはいられない。というよりは他に興味なんてない。目の前で泣かれて、付き添いだった女の子達には軽くの罵られても、この状況をどうすべきなのかもわからない。むしろ、こんな所でぐだぐだしている時間があるのなら悠太に会って抱き着きたい。だから、今、目前の問題はこれで終わりにして、大好きな人のいる屋上へと俺は向かった。


「ゆっきー、やるねー」

「はぁ?」

「やっぱり、祐希くんもモテモテなんですねぇ」

「………」

「でも、まさかお前がオーケーするとは思わなかったわ」

「一体なんの話しをしているんですか」

「何って、君が彼女を作ったという話しですよ、ほらこのメール」



* * * * *

件名
お祝いして下さい!
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本文
今日、私と祐希くんは付き合う事になりした!
凄く幸せです!お祝いしてくれる子はこのメールを友達に回して広めてね!
祐希くんは私のだから、手出したらだめだよ?

* * * * *



何時ものメンバーが揃う屋上での突然の祝福。千鶴に見せられた携帯端末の画面には迷惑な文面が書かれていた。俺が断った事実はねじ曲げられ、中庭から屋上へ来るまでの僅かの間に嘘のメールが飛び交っている。これが女子というものなのか、それとも相手が悪かったのか。最近漫画やアニメで流行のヤンデレというやつにこの妄想系女子が当てはまる。恐ろしい事をするものだと思ったけれど、こんな嘘に俺は振り回される気はない。現実の俺は悠太の彼氏なのだから、こんな虚言は数日後には必ずボロがでるだろう。



「でも、この子も凄いよね、メールで学校中に連絡しちゃうなんてさー」

「ちょっとやり過ぎって気もしますよね、あ、今のは祐希くんの彼女さんに失礼ですね、すみません」

「いいよ、だって彼女じゃないし」

「え?」

「だから、それ、嘘のメールって事です。多分その子、今俺が振ってきた子だから」


俺と悠太の関係を知らない千鶴達が、このメールに騒ぐのもわからなくはない。本当の事を教える事で困惑するものわかる。そのメールと俺の言葉、どっちを信じるか、なんて長年の友人なのだから理解はあるだろう。嘘だとわかれば興味は覚める。いつも通りの屋上での昼食風景へと戻り、要が食べていた弁当を千鶴が横取りして、春がそれを止めていた。けれど先度程から悠太の姿だけが見当たらない。ジュースでも買いに行っているのだろうか。空いた腹が小さな悲鳴を上げる。待ちきれずに弁当のフタを開ければ、同時に感じる背中への重み。後からズズッとジュースを啜る音がした。


「どうしたんですか、悠太さん」

「……いえ、別に」


振り返らなくても分かる。悠太が俺の背に自分の背を預け寄りかかっている事が。そして、その声色が何処か少し不機嫌だと言う事も。メールで知ったのか、それともここに来る途中で小耳にでも挟んだから、きっと千鶴達と同じような嘘を知ってしまったのだろう。


「何か嫌な事でもありましたか?」

「まあ、人の噂も七十五日と言いますし…」

「それなら俺の恋は盲目ですし」

「そんな事は知りません」

「足駄をはいても首ったけなのに…」

「そう言えば、国語辞典まだ返してもらってないよ」

「じゃあ、今からお返しします」


背中合わせに交わすやり取りの意味に屋上で騒ぐ幼馴染達は気づいただろうか。未だに文句を零しながら弁当を食べる要や、叩かれて春に泣きついている千鶴が今の俺達の会話を聞いていたとは思えないけれど。食べかけの弁当のフタを閉じて、後に寄りかかる温もりにそっと手を伸ばす。触れる指先を絡め、立ち上がればそのまま二人で屋上を後にする。春が俺達に気づいて小首を傾げたけれど、口元に手を会えてて内緒と示せば春(はる)のような暖かな笑みで見送ってくれた。バタンと重たい鉄のドアが締まる。突然に触れた唇。人気のない最上階の踊り場でされた大胆な行動は、珍しくも悠太からだった。


「辞書、貸してもらってないよね、俺」

「貸してないからね」

「嘘も方便ですか」

「正直な気持ちより起きた事ですが」

「つまりは、悋気と嫉妬というわけですか」

「良くご存知で」

「正解のご褒美はもう一度キスでお願いします」





正直者が嘘を吐く
(ことわざ:悋気嫉妬も正直の心より起こる)

大好きなれんちゃんへ。
Happy Birthday(o´∪`o)


12.29