師走の空




冬の空は遠く澄んでいて、物理の小難しい説明から現実逃避するには丁度いい景色だった。オレの目の前の幼馴染はこんなお経のような授業さえ真剣に耳を傾けている。今、この教室に彼程勤勉な生徒はいるだろうか。辺りを見回しても欠伸を噛み殺す者や、伏せて寝ている者、教科書に落書きをしている者ばかりだ。

要は本当に真面目だな…。

そう心で呟いた瞬間、要の手が後ろに伸びてきた。よく見ればその手には何か握られいて、それをオレの机の上に置いた。ノートの切れ端が折りたたまれたようなもの。手に取って中を開いてみる。

(お経聞かされてるみたいで眠い)


「っ…」

思わず笑そうになってしまう。オレと同じ事を考えていたんだとか、要がこんなくだらない手紙をよこしてきた事とか、本当に笑い堪えるのに必死だった。でも、そんな要と紙を交互に見ても、ボヤいた内容とは違って、相変わらず真面目そう勉強をしていた。頑張り屋の優等生。その背中をシャーペンの後ろでツンと突つく。ピクリと跳ねた背中にまた少し笑ってしまいそうになる。僅かに後ろを向いて睨んでくる要にさっきのお手紙の返事を渡す。ゴソゴソと動く肩。手紙を読んでる様子。


(眠気醒ましに外でも見たらどうですか?)


手紙を読み終わったのか要は本当に横を向いた。遠い目をして窓の外を眺めてる。要の横顔は結構なイケメンだ。本人には教えてはあげないけど、俺は好き。


あ、今…目があった…?


その一瞬の後、要はまた前を向いた。相変わらず眠気を誘うお経が続いているけれど、俺の眠気は遠退いていた。要の肩が揺れて、二回目の手紙が机に置かれた。


(何、見てんだよ)

………。


返事を書いて要の背中を突つく。伸ばされた手にそれを握らせる。


(かなめ)


それを見た要の右肩がガクンと落ちたのがわかった。それからまた机にノートの切れ端が置かれる。


(見んな)

(なんで?)

(外見てろよ!)

…………。


眠気を誘う授業の中で繰り返されるやり取り。最後の貰った手紙には俺が始めに要に渡した紙が一緒に添えられていた。眠気覚ましに外でもみたらどうですか。そんな事で本当に目が冷めるはずがない。冬の空確かに遠く澄んでいて、物思いにふけるには丁度いいかもしれない。でも、退屈な授業の眠気からは解放はしてくれない。そんな無聊から本当に救ってくれるのは、何時も目の前にあるその背中だった。手紙の返事を書いて、渡そうとすれば、同時に授業終了の鐘が鳴る。ガタガタと椅子や机が音を鳴らして散らばって行くクラスメイト達。オレも同じく立ち上り、そのまま要の耳元に口を寄せる。


「要を見てる方が面白いんです」


最後に渡しそびれた手紙の返事は口頭で。クスっと笑ってみせれば「アホか」と肩を叩かれた。澄んだ空より君の背中や横顔が好き。その事はやっぱり教えてはあげないけど、午後の授業もきっとその背中を眺めて過ごすだろう。









要悠好きのかなたんへ。
Happy Birthday(o´∀`o)

12.20