「なまえ、誕生日おめでとうー!」
「ありがとう、馬頭!」
いつもより少しだけ豪華な夕食。テーブルの上に敷き詰められたたくさんの皿の上には色とりどりの食い物が乗せられていた。目の前では馬頭丸がなまえに綺麗にラッピングされたプレゼントを渡している。牛頭丸はその光景をみて、さてどうしようかと考えていた。今日はなまえの誕生日である。想い人の生まれた大切な日だ、祝ってやりたいと思うのだが牛頭丸の性格上、素直にそれができないのは本人も、周りもわかっていた。もし二人が恋仲だったとしたらプレゼントを渡すくらい牛頭丸にとってもどうということはなかった。しかしいつもなまえに悪戯をして困らせている身であったから、今更素直にそんなものを用意できるはずもなく、今日この時を迎えてしまった。
「なまえ、これは私からだ。」
「牛鬼さまも…!ありがとうございます!」
ねえねえ、開けてみて!という馬頭丸にこたえ、なまえはさっそく薄紅色の綺麗な包装を丁寧に剥す。中には、これもまた可愛らしくリボンがつけられた小瓶が入っていて、さらにその中には乾燥した花がたくさん詰まっていた。
「これね、ポプリっていうんだって!人間の芳香剤らしいよ!」
「わぁ、いい香りだね。ありがとう、すごく気に入ったよ!」
「わーい!気に入ってくれて嬉しいなぁ!ねえなまえ!牛鬼さまのプレゼントも開けて見せてよぅ!」
「牛鬼さま、開けてもよろしいですか?」
「ああ、構わん。」
少し大きめの布に包まれたそれをなまえが開けようとすると、馬頭丸が早く早くと急かした。牛鬼からのプレゼントには牛頭丸も興味があるのか、少し身を乗り出してそれを見ていた。中身をみてすぐにうわあ…!と感嘆の声を漏らしたのはなまえ、馬頭丸、牛頭丸の三人。布の中には綺麗な着物が入っていて、なまえによく似合いそうな桜色で、花がたくさんついた着物だった。
「こんな高価なもの…!本当にありがとうございます!」
「大事に着てくれればそれでよい。」
「さっすが牛鬼さまぁ!僕とはレベルが違うぅ。…で、牛頭のプレゼントは?」
ギクリ。いつかそれをふられると思っていたがその時が突然だったために予想以上にビクついてしまった牛頭丸。それを見た馬頭丸は、まさか、用意してないの!?と言った。
「なっ、なんで俺がなまえにプレゼントなんて用意しなきゃなんねーんだよ!」
「なんでって、牛頭はなまえの事好…」
「あーーーーーー。」
「もう、二人ともうるさいよ!私は別に、プレゼントなんてもらえなくてもこうやってお祝いしてもらえるだけでありがたいから大丈夫だよ馬頭!」
「でもなまえ、牛頭ほんとは…」
「あーーーーーー。」
「もう!うるさいよ牛頭!」
馬頭丸が余計なことを言いそうになったせいで声を張り上げてそれを掻き消した牛頭丸はなまえに叱られた。だって、ああでもしなければ俺のプライバシーは保護されなかった。そう言って談判することもできず、居心地が悪くなった牛頭丸は大急ぎでそこにある食べ物を口の中へかきこむと、ごちそうさまも言わずに部屋から出て行ってしまった。
「あーあ、牛頭ってば素直じゃないんだから。」
「まぁまぁ馬頭、とにかくご馳走食べよう?」
馬頭丸の"素直じゃないんだから"という言葉に特に疑問を抱かないなまえに、牛鬼は少しだけ牛頭丸が可哀想に思えた。牛頭丸を抜かした三人は、楽しく会話しながら食事を楽しんだ。その時、なまえの表情が少しだけ悲しそうだったのだがそれに気づく者はいなかった。
* * *
「ったく馬頭のやつ…!余計なことばっかり言いやがって。」
自室に戻った牛頭丸は、部屋に灯りもつけずに腕を組んで座っていた。余計なことは言われ(そうにな)るし、なまえには怒られるし。牛鬼に怒られなかったのが不幸中の幸いだったろう。しかし、何が一番牛頭丸を落ち込ませているかというと素直に祝ってやれない自分自身に嫌気がさしたことだった。せめて、プレゼントがなくたって"おめでとう"の一言が言えればこんなことにはならなかった。なまえは牛頭丸の誕生日にはおめでとうと必ず言うし、プレゼントもしている。自分の誕生日を祝われるのはきっと誰だって嬉しいはずだ。はぁ、なんで俺、こんなんなんだろーな。頭を冷やしてよく考えた牛頭丸は、次になまえに会ったら"おめでとう"を言おうと決心した。その時だった。
「…牛頭、いる?」
襖の向こうからなまえの声が聞こえて、今までずっとなまえの事を考えていた牛頭丸はうおっ、と声をあげてしまった。その声を聞いたなまえは、入るよ?と言って牛頭丸の了解を得る前に襖を開けた。
「これ、ケーキ。牛頭のぶんだから…。」
「…甘いの食えん。お前にやるよ。」
「そう言うと思って、なるべく甘くないやつ選んだんだけど…。」
会ったらすぐに"おめでとう"を言おうと決めたはずだったのだが、予想外の展開でなまえに会ってしまった為その決意は脆く崩れてしまった。
「…じゃあ、そこ置いとけ。」
「うん。あ、あのさ、さっきは怒ってごめんね。」
「別に。牛鬼さまに雷落とされるよりお前のショボイ説教の方がラクだし。」
むしろ感謝する。そう言うと、なまえはふふふ、と笑った。少しいい雰囲気になった今がチャンスだと思った牛頭丸は、恥ずかしさを捨て勇気を振り絞り、口を開いた。
「あー、なまえ。」
「ん、なあに?」
「その…あれだ、おめでと。」
「…!う、うん!ありがとう!」
やっと言えたと心の中でガッツポーズを決めた牛頭丸は気持ちに余裕ができたのか、プレゼントのことを考え出した。やはり後からでも何か渡した方がいいのではないか、いや、渡したい。そう思い、欲しいものがないか尋ねることにした。
「今はプレゼントとか、買ってねえけど。…なんか欲しいもんあるか?」
「え…くれるの?」
「たけぇもんは無理だぞ。」
「わかってるよ!…嬉しいなー、何にしよう…。」
うーん、うーんと考えるなまえはしばらく牛頭丸の部屋を見渡した。特に欲しいものがなかったので、ヒントを得ようと思ったのだが殺風景な牛頭丸の部屋にそんなヒントは見当たらなかった。ふと、視線を牛頭丸に戻すとあるものがなまえの目についた。
「…それ。」
それ、となまえが指差した先には牛頭丸の頭部があった。手で頭を押さえ、あ、頭?と聞き返す牛頭丸だったがもちろんなまえの首は横に振られた。
「髪結い紐がほしいな。」
「わかった。明日買ってきてやるよ。」
そう言うと、なまえはそうじゃなくて…、と少し恥ずかしそうに言う。その様子に頬を赤らめたくなったがそうじゃないならどうすればよいのかわからず、じゃあなんなんだよと牛頭丸はなまえに再度質問した。
「牛頭のそれが欲しいの!」
「…こんなんでいいのか?」
「うん!」
「たしか机の中に新しいやつが…」
「牛頭が今つけてるやつが欲しい。」
「…ほんとにこれでいいのかよ。」
それがいいの!と言うなまえが異常に可愛くみえて、牛頭丸の顔は先程よりも赤みを増した。とりあえず机の引き出しの中を覗くと同じものが数本入っていて、一本を取り出すとなまえの前に戻った。頭の後ろに手をまわし、結っていた髪をほどくと牛頭丸の男子にしては長い髪がさらさらとほどけていった。少しだけ結ったあとがついていたが気になるほどではなかった。牛頭丸は髪から外したその赤みがかった紐を、なまえに手渡す。
「ほら。」
「ありがとう!牛頭って、髪綺麗だね!」
「うるせえ。」
受け取った髪結い紐で、なまえはすぐに髪を結い始めた。これでよし!と顔をあげるとハーフアップにしたなまえがニコリと牛頭丸に笑いかけた。
「へへ、牛頭とおそろい!牛頭も早く結って!」
「…へいへい。」
自分と揃いの髪型だと喜ぶなまえに、牛頭丸は自然に笑みを零す。"おめでとう"が言えたし、プレゼントも渡せた。馬頭丸のような女子が喜ぶ可愛らしいものじゃないし、牛鬼のような高価なものでもない。しかしなまえは二人にプレゼントを貰ったときよりもはるかに嬉しそうだ。揃いの髪結い紐に、揃いの髪型。恥ずかしいが、なまえの笑顔が見れるならと牛鬼や馬頭丸に見せにいこうというなまえの誘いを受け、二人は部屋をあとにした。
運命の赤い糸
―今回だけは赤い紐!
「…ぷっ。くくく…!牛頭がっ…素直にお揃いにするなんて…」
「笑ってんじゃねーぞ!糞馬頭!」
「もう!うるさいよ牛頭!」
***
佳央さまリクエスト、
牛頭丸で甘夢でした!
誕生日にお揃いのものを
プレゼントされるという
素敵すぎるリクでしたので
実行させていただきました!
牛頭が素直にペアものを
くれるはずがないので(笑)
こうなったら夢主がねだるしかない!
と思って書き進めたらこうなりました。
途中で、牛頭さんが髪をほどくとこ、
あれは私すっごい憧れてて(笑)
目の前で牛頭が髪をほどいたら
なんて素敵なんだろう。みたいな。
絶対いつか小説に書いてやろうと
思ってたんですけど、今回使えて
すごく満足しています。(笑)
あと、結うときに口に
ゴムを咥えてたら尚いい。(爆)
そこにsexyを感じます。
佳央さまのみお持ち帰り可です!