「くっそ!おい牛頭!
こうなったら飲み比べだ!」

「っは。上等だコラ。
猩影なんかに負けるかってんだ。」

「ちょっと…二人とも…。」


二人が部屋に戻ってきたあと、
いつものように些細なことから
言い争いがおこりまして
飲み比べをするとか言い出しました。

猩影くんも私にいつもと変わらない調子で
接してくるし、牛頭とギクシャクしてる
感じなんかまったくないし…。
きっとさっき牛頭が部屋を出た時に
何か話でもしたのだろう。
とにかくなんであれ、
仲直り(?)できてよかった。


そんなことより、だ。
猩影くん、君たしか
自称「リクオと年はかわらない」
じゃなかったかな?
牛頭は見た目は幼くても
もう何百年も生きているから
問題ないとしても、
猩影君は問題ありなんじゃ…?
妖怪年齢としてはOKであっても、
人間的にはアウトなんじゃ、
そんなことをぶつぶつ考えているうちに
二人はすでに飲み比べを始めてしまった。

二人の手には焼酎を入れるような
少し大きめのグラスと、
おなじみ妖銘酒が握られている。
周りからは既にやれやれ!と
囃し立てられていて、
その光景をみて皆笑っていた。
リクオなんかは面白がるように
二人のお酌までし始めたもんだから
もうそれが止まることはなかった。


「ほらほら猩影、まだまだこれからだぞ。」

「っあぁ?俺はまだ全然余裕だけどな!」

「余裕な割に顔が真っ赤だぞ、ははっ。」

「そういうお前も足元ふらついてっぞ。」


猩影くんは顔に出るタイプなのか、
既に顔が真っ赤になっている。
牛頭は顔に出ていないものの
足元がふらふらし始めている。
その様子をみた毛倡妓が
アンタたち、まだまだねぇ、と言って
妖銘酒をラッパ飲みしていた。
姐さん、アナタ一体何本飲んだんですか。
足元に散らかるのその瓶は
アナタの仕業ですか。

私はもはや止めることも諦め、
部屋の隅っこでその様子を見ていた。
改めて部屋を見渡すと、すごい。
何がすごいかって、その散らかりようだ。
さっきまでお膳が綺麗に並べられた
広いお部屋だったのに、
今では足の踏み場もない程散らかった
ただの汚部屋だ。
ここの片づけをするのは
一体誰なんだろう。
それを考えるとその人が
とても可哀想に思えた。


「みんな酔ってるね。
全く、ついてけないよ。」

「そっか、首無はお酒強くないもんね。」


隣に座っていた首無が話しかけてきた為
顔をそちらに向けた。
首無はお酒強くないから、飲まない。
私と同じで少し呆れたように
皆の様子をみていた。
そして、ははは、と楽しそうに彼は笑う。
私もつられて笑った。


「それにしても、驚いたよ。
牛頭丸と名前が…。」

「あぁ、それ皆に言われたよ…。
そんなに意外な組み合わせなのかなー。」

「意外と言えば意外だし、
お似合いと言えばお似合いだし…
ってとこかな。だってほら、
僕らのイメージとしては牛頭丸は
名前のお兄さんって感じだったから。」

「お兄さん、ねー。
確かに昔はそうだったかも。」


父親代わり、と言っても牛鬼さまは
忙しかったからあまり私の世話を
する機会がなかった。
そこでいつも幼い私の身の回りを
世話してくれていたのが牛頭だった。
おもちゃで遊んでもらったり、
食事させてもらったり。
そういえば、一緒にお風呂に
入ったりもしたっけな。
あの時のことを思い出すと
すごく恥ずかしくなる。




「ねぇ牛頭、コレなあに!」

「馬鹿野郎、あんま見んな。」

「名前にはないよー、コレ。」

「あ?大人になりゃ自然に生える。」

「えー、なんかいやだぁ。」





「うわぁー…。」

「ん?どうかした?」

「ううん、なんでもないよ首無…。」


とまあ、私も幼かったわけであって、
まさかあれが男の人にだけあるものだとは
全く思いもしなかった。
その時の光景はあまり覚えていない。
いや、思い出そうと思えば思い出せるのだが
できれば思い出したくない。
というか牛頭も牛頭で、幼い女の子に
あんな嘘をつくなんて、どうかしている。


「でも今ではすっかり名前のほうが
お姉さんになっちゃったね。」

「ははっ、そうかもね。」


その時、牛頭がフッとこちらを見た。
その瞬間目が合い、足元をふらつかせながら
牛頭がこちらに歩み寄ってきた。
片手には妖銘酒を持って。


「…おい名前、首無と何喋ってんだよ」

「何って、世間話だよ。」

「ほんとーに世間話かよ。
楽しそうにケラケラ笑いやがって。」

「いや、ケラケラしてな…ってか
ちょ!大丈夫?」


フラフラな牛頭丸が私の所へ
倒れこんできたため、
両手を使ってそれを抑えた。
こりゃいかん、だいぶお酒がまわってる。
そう思ったとき、牛頭が首無に妖銘酒を
ん、と手渡した。

刹那、私の体が浮いた。


「ちょ、ちょちょちょ!」

「大人しくしてろ、落とすぞ。」


周りからは先程よりも大きな声で
私たちを囃し立てる声が聞こえる。
そこ、開けろ。と襖の近くにいた
小妖怪に牛頭丸が命令すると、
私を抱えたまま部屋の外へ出た。


「ちょっと、牛頭!」

「…うっせー。」

「あ、危ないから!降ろして!」


フラフラな足取りで私を運ぶもんだから
とっても不安定で、私は落とされないかと
不安になった。
掴まっとけ、という牛頭に従って
とりあえず着物を握りしめる。

牛頭の顔を見ると、酔っていることが
一目瞭然だった。
目はトロンとしていて、顔も赤い。
おまけに吐く息もお酒のにおいがした。
でもそれにあまり嫌悪感を抱かず、
むしろお酒が飲める大人な牛頭に
少しドキっとしてしまった。


しばらく廊下を歩くと、
私に割り当てられた部屋の前に着いた。
牛頭は器用に足で襖を開け、部屋に入ると
敷いてあった布団の上に私を降ろした。
そして襖を閉めに行った後、
再び私の前に来て、座った。


「お前さー、何。」

「何って何!何がしたいの牛頭は!」

「なんなんだよお前はよー。
楽しそうに他の男と話しやがって。」

酔っているせいか、語尾が少し伸びている。
それにやきもちを妬いているのが
すごくよくわかって、
なんだかかわいい。


「お前は俺のもんだから。」


そう言われた瞬間、
牛頭の唇と私の唇が重なった。
牛頭の口からはお酒の香りがした。

しばらくすると唇が離れたが、
名前、と名を呼ばれたあと
もう一度キスが落とされた。

そしてそのまま、布団に向かって
押し倒された。
突然の事でびっくりしてしまい、
抵抗しようとしたが
両腕はがっちりと牛頭の手によって
抑えつけられていたため
ビクともしない。

「ふ…ぅ、!!」

牛頭の舌が、私の口内へ入ってきて、
私の舌を絡めとる。
舌を存分に絡めたあとは
歯列を丁寧になぞられたり
唇を吸われたり、
とにかく牛頭の舌が甘く甘く
私の口元を犯していった。

牛頭と、フレンチキス以上を
したことがなかったため
緊張と嬉しさがまざって
動くことができなくなってしまったが、
私もそれに応えるように
舌を動かすが、やはり慣れない。

牛頭は、キスが上手だな。
何百年も生きてるんだもんね、
今までに恋人がいたとしても
全然不思議じゃないよね。

少し悲しくなったが、
今度はそれどころじゃなくなった。
牛頭が、私の体のあちこちを
探るように触っている。
まずい、これはまずい。


「んー!んん!…ん?」


このままでは怪しい方向に
流されると思った私は
キスをされながらも声をあげて
必死に反抗したのだが、
私を抑えつけていた牛頭の手から
力が抜けて行ったことに気付き、
牛頭と自分の体を引き離すと
牛頭はごろんと転がってしまった。


「…だからって寝ないでよ、馬鹿牛頭。」


すやすやと眠ってしまった牛頭は
なにやら喜びに満ちた顔で。
その顔を見ていたらなんだか私まで
嬉しくなってしまった。

牛頭を布団に引っ張り入れて、
私も隣へ侵入して横になると
俺の勝ちだ、と寝言を言いながら
私をギュッと抱き寄せた。
大方、飲み比べの夢でも見てるんだろう。

そういえばさっきの話。
牛頭は過去にどんな人と
お付き合いしたんだろう。

そんな不安を現に残して、
私は夢の世界へ飛び込んでいった。


















酔いつぶれ
―と、見せかけ襲う作戦。だが失敗。


















その日、私の夢に出てきたのは
知らない女性と微笑みあう
愛おしい人の姿だった。















***


うーあ。うーあ。
ついにこの子達も深い口づけ
即ちディープキッスを…黙
健全なお付き合いさせたかったけどな!
でも私やっぱりこうしちゃうんだよな!
うん、後悔はしてない!

さて、また新しい不安が
出てきた名前さん。
どうなんでしょうね、牛頭の過去。