猩影に嘘は向いてない。
俺が言えたことじゃないが
本当に向いてない。
名前が鈍感でよかった、と
思わざるを得ない。


何かと俺と名前を
からかってきた猩影。
でも俺は気づいてたぜ?
お前が少しずつ名前に
惹かれてたこと。


名前はすでに
俺のもんだったから
心配する必要なんか
ないと思ってた。
手をだすことは
絶対ないと思ってた。


でも、あいつも男だ。
名前に手を出した気もわかる。
それにそれが俺のせいであることは
あきらかであるから
咎めるにも咎めらんねえ。

しかしまあ、これからの
付き合いもあるし。
けじめはつけておかねーと
この先気まずくなる。


こんなことを考える自分を
成長してんなー、とか
らしくねえなー、と思いながら
名前の手をとり
宴会場へ向かう。

猩影もきっと宴会場へ
行っているはずだ。


広間へ着くとすでに
宴会は始まっていて、
食いもんやら酒やらが
足の踏み場もないほど
散らかっていた。
本当に本家のやつらは
宴会が好きだ。
とやかく言う俺も
宴会は嫌いではないが
性格上素直に皆で楽しく
わいわいなどできない。
酔えば、また別の話だが。



「牛頭、あそこ座ろう?」

「あ?おお」

名前が指差したところは
リクオと首無の間。
まだ少しスペースがあった。
そこまで歩み寄ると
さてどちら側に座ろうかと
頭を抱えて悩む。

リクオはすでに強気な夜の姿。
奴良組一のイケメンと
言っても過言ではない首無。

名前を、どっちに
座らせようか。
いや、嫉妬じゃないぞ。
ただほら、さっきみたいなことが
また起きたらって考えたらな。
皆酒入ってるしな。
そう、嫉妬じゃない。
心配なだけだからな。


葛藤しているうちに、
お隣失礼しまーす、と言って
名前は首無の隣に腰をおろした。

「わー!首無!
私夜のリクオ初めてみた!」

「よくわかったね」

「だって頭の形が総大将さんに
そっくりじゃん!」


それ、リクオ本人には
言わない方がいいぞ。
首無の隣…まぁいいか、
首無は酒飲まねえしな。
フェミニストなだけだしな。
今のリクオのほうが
よっぽど危険だ。
俺がリクオの隣ってのも
なんだか気がつれねえが
ここしかないのだから仕方ない。
俺は名前とリクオの間に
腰をおろした。

適当に、食い物を口へ運ぶ。


「よぅ、牛頭丸」

「なんだよ」

「今までどこ行ってたんだよ」

「関係ねーだろーが」

「いちゃつくのは構わねえが
ほどほどにしろよな」

「ぶっ」

ニヤリとリクオが笑う。
思わず食っていたものを
吹き出してしまった。


「そ!そんなんじゃねぇ!」

「ほー。」

本当にムカつく野郎だ。
何から何までお見通し
って感じの態度が
俺をどぎまぎさせた。



そういえば、猩影は
どこにいるのだろう。
箸の動きをとめ、あたりを
きょろきょろと見渡す。
が、その姿が見当たらない。


「リクオ、猩影知らねえか」

名前に聞こえないよう、小声で尋ねる。
リクオは居場所を思い出すように
あー、と目線を上にもっていく。

「東の方の縁側にいんじゃねえか。
あいつここくるといつも
そこに座ってやがるからな」

俺はそうか、と礼はせずに立ち上がる。

「牛頭、どこいくの?」

急に立ち上がった俺に
名前が問いかけてきた。

「んーこだ、んーこ」

「ちょっ…!トイレって言ってよ!」

下品な俺の発言に名前は
困った顔で怒る。
この顔を見るのが楽しくて
からかっちまうんだよな。


広間から出ると東の縁側に向かった。
もう月は高くのぼっていて
辺り一面を明るく照らしている。
池に月がうつり、
なんとも風情のある光景が
俺の心を穏やかにさせた。


目的の場所には
リクオの言ったとおり、
猩影が座っていた。
どうやらまだ俺の気配に
気づいていないようだ。


「呑気に月見ですか」

「…!牛頭か…」


猩影は俺をちらりと見て、
再び目線を月に戻した。
まあ座れよ、と隣をポンポンと叩き
俺をそこへ誘う。

素直にそれに従い、
猩影の隣に腰をおろすと
俺も月を見上げた。


「お前嘘下手だな」

「…牛頭に通じねえだけだろ」

「名前だから通った嘘だ」

「ははっ、まじかよ」


笑ってはいるが、
やはりいつもの猩影ではない。
どこか、影があり
寂しげなオーラを纏っている。
口には出さないが多分こいつは
満たされてないんだろうな。
狒々が殺され、きっと
心はボロボロなんだ。


「悪かったな、もう手出さねえから
安心しろ。そして許してくれ」


いつもの俺だったら
謝られたって何されたって
許すはずもないし、
こんなに穏やかでいられるはずがない。
悔しいが、やはりこいつのことを
仲間だと認識しているせいだろう。
あまり、怒る気になれないのだ。
でもけじめはつけたい。
だからこそ、俺はここにきた。


「ばーか、そんなぬるい謝罪で
許すわけねーだろ」

「じゃあどーすりゃいーんだよ」

「一発殴らせろ」

「なかなか古風だなお前」


うるせえ、と言って
俺がその場に立ち上がると
遅れて猩影も立ち上がった。
が、すぐに腰をかがめる。

「お前じゃ顔に届かねーだろ」

「届くわ!ムカつくから二発な」

「はっ、それは勘弁だわ」

自分で言ってて虚しいが、
普通に殴ったら届かないだろうから
この高さがちょうど良かった。


「歯ぁくいしばっとけ」


バシッ、でもないし
バンッ、でもない。
ビンタの音はなんとなく
あらわせるのだが
拳の音となると表現が難しい。
とにかく、猩影の左頬めがけて
思いっきり殴ってやった。

ああ、なんかすっきりした。

猩影はというと、
拳の威力が予想を上回ったのだろう、
頬を抑えながらよろけていた。
あのデカい猩影をよろけさせた、
それだけで自信がつく俺って
一体何なんだろう。


「お、お前意外と力あんのな…」

「あたりめーだろ!
なめすぎなんだよお前は」

「だってチビだし」

「デカブツのくせによろけるたぁ
チビも捨てたもんじゃねーな」

「それ自虐?」

「違ぇ!くそ、もっかい殴らせろ」




その光景を実は
リクオが目撃していたらしく。
広間に2人で戻ったあと
「お前らって仲いいんだなー」と
物珍しそうに言われた。

「「ぜってぇ違ぇから!!!!」」

猩影と俺が同時にそう言うと
やっぱり仲いいんだなーと返され
猩影も俺もそれ以上は返さなかった。


















男のけじめ
―仲良しなんかじゃねえ!


















「名前ー!お酌してくれよ」

「てめっ!手出さないんだろ!」

「酌くらいいーじゃねーか!
な!名前!」

「肩くむな!肩!」










***


猩影くんと牛頭、
この2人はきっと
すごく仲良し(笑)
凸凹コンビがいい!←

こういう男の友情に
ひどく憧れます。