スパンっと襖が閉まり、
猩影くんが部屋から出て行った。


あんなに怖い猩影くん、
初めて見た。
あんなに一生懸命な猩影くん、
初めて見た。

あんなに悲しそうな猩影くん、
初めて見た。


私は襖が閉まったあとも
しばらくそこを見つめていた。


でも、あれは演技だったんだよね。
牛頭をここへ誘き出すための
猩影くんの作戦であって、
私と牛頭を仲直りさせるために
こんなことしたんだよね。
だったら、心配はいらないはずだ。
それなのに、猩影くんの
あの瞳の悲しさが
頭から離れなかった。


「…あいつ、嘘下手だな」

「…え?」

「ん…いや、なんでもねえ。
あー、名前。」

「…なあに?」


牛頭も猩影くんから
何か感じたのだろうか。
牛頭がポロリと零し、
それを問うが答えず、
牛頭は話をそらした。


「あれだ、お前は誤解してる」

「うん、そうだと思う。」

「ちゃんと話すから、聞けよ」

「うん、教えてください。」


牛頭はああなった理由を
私に教えてくれた。
書物が落下し、氷麗に
あたりそうになったこと。
それを庇ったこと。
そのせいでバランスを崩し、
あの体勢になってしまったこと。


話してくれているとき
牛頭は私の目をみて
視線をそらさなかった。
あんまり真剣なもんだから
こちらが少し恥ずかしい。



「んまぁ、そんなとこだ。
…悪かった。」

「牛頭、氷麗庇ってくれて
ありがとう。
誤解してごめんね。」

「ん。わかりゃいい」


牛頭の言葉に、嘘はない。
牛頭の瞳が、真っ直ぐだったから。
それになにより、牛頭は
嘘がつけるほど器用でない。
一瞬でも疑った自分が
おかしくおもえる。


あーもう勘弁だ、と言って
後頭部に手をまわし、
頭をかきはじめる牛頭。
すると一瞬顔を歪めたので
どうしたのかと尋ねる。

「庇ったとき頭打った」

「ちょ、それ早く言ってよ!」


まったく、怪我をしているなら
早く言ってほしい。



「傷、どこ?」

「んーこのへん。
大丈夫だっつの」

「ほんとだ、腫れてる…
ってか血でてるよ!
少しだけど!」

「ほっときゃ治る」


なんてアバウトな!
この人の場合、放っておくと
化膿するのが落ちだ。

ここに救急箱はないので、
暫時私の持っていたハンカチで
傷口を抑える。

大丈夫だといって牛頭は
大人しくしないが、
傷口をぐっと押すと
声にならない声をあげて
急に黙った。
痛いくせに、我慢するんだから
放っておけない。



「名前」

「ん?」

「ちょっとそのままな」


なにが?と聞こうとするが
時すでに遅し。

あぐらで座る牛頭に、
傷口を抑えるため
立ち膝をつく私。
その体勢のまま
牛頭は私を包み込んだ。
きゅっ、と優しく温かい。

体勢的に、私が
牛頭の体に手をまわすと
自然に牛頭の頭は
私の胸元にくる。

低い位置で抱くと
なんだか子供みたいで。
母性本能がくすぐられる。
穏やかに呼吸をする牛頭を
こんなに近くで感じられる。

私はこの人と、
ずっと一緒にいたい。
妖怪と人間、寿命の差は
あきらかだ。
それに逆らうことは
きっと無理だろう。
でも、できるだけ長く
共に生きていたい。


私が人間でよかった、
もし私が妖怪で、牛頭が人間なら
私が残されちゃうから。
寂しいのは嫌だから。
なんて、ずるいことを考える。



「名前ー!!
どこですかぁ!!」


少し遠くで、氷麗の声が聞こえた。
それを合図に、
私の体から牛頭の温もりが離れる。
名残惜しいが、もう行かなくては。


「…行くか。」


牛頭はそう言って
先に立ち上がり、
私に手をのばす。

私も手をのばし、
牛頭のそれに重ね、つかまる。

ふわり、と体が浮き、
立ち上がると同時に
牛頭に引き寄せられた。


刹那、口元に生ぬるい
温もりを感じた。
ちゅ、というリップ音と共に
牛頭が顔を離す。
キスをされたんだと
恥ずかしくなり、
眉をひそめて赤くなる私を見て
もう一度顔が近づく。


またキスをされるのだと思い、
恥ずかしくって
目を思いっきり瞑る。

しかし、いつまでたっても
唇にぬくもりを感じない。
不思議に思い目をあけると
牛頭が私を見ていた。

勘違いか!と思い
さらに恥ずかしくなる私。
それを見て牛頭はニヤリと笑う。
そして再び迫ってくる。


今度こそ唇に何かあたったが
キスとは違う感覚。
ペロリと唇を舐められ、
顔が離れた。


「な…!な…!!//////」

「消毒だ」

「し、消毒?///」

「猩影にちゅーされたんだろ」


牛頭はフン、と後ろを向き
部屋の出口に向かう。

襖の前で振り向き、
固まってしまって
動けない私に
行くぞ、と声をかける。


その顔がお互いに
これまでにないほど
真っ赤だったのは
2人だけの秘密。



















傷に消毒
―お前の口にはキスで消毒!



















「あぁっ!名前ーっ!
誤解なのですぅっ!うわーん!」

「つ、氷麗!大丈夫、
牛頭に聞いたから!」

「あーん!よかったぁ!
ごめんなさい名前ー!」

「よしよし、私もごめんね!」













***



消毒とか!とか!とか!
キザですかア!ナ!タ!(笑)
いや、でも言われたい。←


牛頭は猩影くんのこと、
よくわかってるんですね。
だってなんだかんだで
仲良しだもの。
男の友情!美しい!(爆)


誤解が解けて、
一件落着です/(^o^)\