「よいしょ…っと」


ホコリひとつない部屋。
その部屋は書物が少し
転がっているだけで
ほとんど片付ける
ところがない。
しかしこの部屋を
綺麗にするようにと
牛鬼さまに言われた。


この比較的綺麗で
生活感のない部屋は
牛頭の部屋である。
男の子の部屋ってこんなに
綺麗なものなのだろうか。



―スッ


「終わったか?」

「あ 牛頭、終わったよ
っていうか綺麗すぎて
片付けるとこなかったけど」


掃除の進行状況を気にして
牛頭が部屋へ入ってきた。


「それにしても、牛鬼さま
なんで俺の部屋の掃除なんて…」

「ほんと、なんでだろうねー」



普段、自分の部屋の掃除は
自分でするよう言われている。
だから私が牛頭の部屋の
掃除をするのなんて、
年末の大掃除のときくらいだ。

なのに、なぜこの時期に?

私と牛頭はしばらく
うーんうーんと唸りながら
考えたが、思い浮かばない。

当の牛鬼さまは今朝から
どこかへ出かけてしまった。
理由を聞く暇はあるわけなく
とりあえず言われた通りに
掃除をした。

でももうそろそろ、
牛鬼さまも帰ってくる頃だ。


「帰ってきたら理由聞こうね、
このままじゃもやもやする」

「ああ、俺ももやもやする」

「牛頭ってもやもやとか
かわいい言葉似合わないね」

「うるせぇ アホ」





「牛鬼さまー!
お帰りなさいませー!」


なにやら玄関から、
馬頭の騒がしい声が
聞こえる。
どうやら牛鬼さまが
帰ってきたようだ。

私たちも急いで
玄関へ向かう。


「お帰りなさい牛鬼さま!
と…、」

ちらり、と目線を
牛鬼さまからそらす。

牛鬼さまの隣には
とても背の大きな人がいた。
フードを被っているため、
顔がよく見えない。


「…ああ、牛頭、馬頭、名前。
彼は…」

「名前!久しぶりだな!
馬頭と、あと牛頭も」

「「「猩影(くん)!!!!」」」


フードをとりながら
挨拶をする青年。
その人は狒々組
若頭の猩影くん。
何年ぶりだろうか!
すごく背が高くなり、
格好よくなっていた。
…でもなぜここに。


「名前〜!
かわいくなったなお前!」

「へっ!?あ、ありが…」

ありがとうと言い終える前に
体が宙に浮いた。
猩影くんに、
抱き抱えられている。

「んな…っ!!!!//////」

「名前ー!背はあんま
でっかくなってねーなー!」

「ちょっと!おろして!」


ごごご牛頭が!牛頭の顔が!
大変なことになってるから!
あの子意外とやきもちやきで
後でおっそろしいから!
お願いだからおろしなさい!

「猩影…名前おろせ」

「いーじゃんかよー
久々なんだから」

「…ゴホン、
まあ、とりあえず中に入ろう。
猩影、名前をおろして
やりなさい…」


牛鬼さまのひとことのおかげで
私はようやく地上に
帰ることができた。

牛頭は案の定、
猩影くんを睨みつけ
何しにきたんだよ!と
半分キレていた。



「はい、どうぞ」

「おっ さんきゅー!」

居間に全員が集まり、
私は全員分のお茶を入れる。

猩影くんはなぜか
私の隣に座っている。
そこには本来なら
牛頭が座っているはず
なのだが、猩影くんに
場所をとられたせいで
牛頭は不機嫌そうに
馬頭の隣に座っていた。



「さて、猩影のことだが」

牛鬼さまが、口を開く。

「お前たちも知っている通り
先日四国が狒々組を襲い、
狒々組は…壊滅した」

そこまで聞くと、
猩影くんは唇を
ぎゅっ、と噛みしめた。

猩影くんのお父さん、
狒々さまは亡くなった。
悲しいだろう、
悔しいだろう。
私は猩影くんの気持ちを
考えると、自らも
苦しい気持ちになった。


「そこで、だ。
しばらくの間牛鬼組で
猩影を預かることにした」


「そーゆーことだから、
よろしく頼むわ!」


先ほどまでの暗い顔は
どこへいったのやら。
猩影くんはニコニコと
こちらを見ている。


「あー、そうなんだ
よろしく猩影くん」

「猩影!僕と遊んでねー!」

「…フン」



それぞれあいさつを
交わしたあと、
牛鬼さまが思い出したように
再び口を開いた。

「そうそう、猩影の部屋は
牛頭と一緒だ。
2人とも仲良くするんだぞ」


「…………はあぁぁぁ!?

「こら、うるさいぞ牛頭」



…あぁ!それで
掃除をさせたのか。


ようやく牛鬼さまが
牛頭の部屋を掃除しろと
おっしゃった理由が
わかった。

牛頭のもやもやは
消えるどころか、
さらに増えたようだった。




















波乱万丈予想
―一難去ってまた一難










「お前もっと端にいけよ」

「あ?狭いんだよこの部屋」

「テメーがデカいからだろうが」

「あぁ、お前チビだもんな」

「…(コロス)」






***


あわわ 猩影くん!
なんかチャラいよ!

ライバルが、また増えた牛頭。
猩影くんイケメンだから
なかなか手ごわいぞ!←


牛頭と猩影くんの
ケンカを書くのが
とても楽しいです。