あの日から今日で3日。

私と牛頭はなんだか
ギクシャクしていた。
特に話すこともなく、
話したとしても2、3言で
会話が終わる。

すごく、苦しい。
今までこんなことなかった。
どうしてこうなったんだろう。


私は今の状況に陥った
原因がわからず、
もやもやしていた。


考えすぎのせいか、
頭がひどく痛い。
加えて腹痛までし始めたが
恋の悩みごときで
学校を休むわけにもいかない。
私は自分に頑張れ、と
エールを贈った。


「いってきます…」

「名前〜大丈夫?
顔色悪いよ?」

「大丈夫だよ馬頭。
ちょっと寝不足でさ!
じゃ いってくるね」



馬頭の優しさが
心にしみる。
今の私にはとても
ありがたかった。







***


案の定学校でも
頭痛と腹痛に襲われ、
吐き気まででてきた。

何これ私、もしかして
死ぬのか?
死ぬのかコノヤロー。


「名前ー、大丈夫?
アンタなんかやたらと
苦しそうなんだけど」


友達も、みんな心配
してくれて。
ああ私って幸せ者なんだと
改めて感じることができる。


ああ、幸せ…
しあわせ…
うーん、ぐらぐらする…





そこから、記憶が
途切れてしまった。






***


「んー…」

「おっ 名前ちゃん
気がついた?」

「?…田中…くん?
あれここって…」

「保健室だよ!名前ちゃん
具合悪かったんでしょ?
倒れるまで無理しちゃ
ダメだろ」


そっか、私あの時
倒れちゃったんだ。
で、田中くんがここに
連れてきてくれたと。



「あ、ありがとうね、
もう大丈夫だから
授業いきなよ」

「んーおお…」


彼は立ち上がって、
ベッドをしきるカーテンに
手をかける。


「名前ちゃん。」

「なあに?」

「この間のこと…
考えてくれた?」



この間のこととは、
告白の返事の事だろう。

私は牛頭が好き。
だけどちゃんと田中くんの
想いも考えた。
ありがたいが、やはり私は
牛頭が好きで。
その想いはたとえ
叶わないものであっても
他の人で埋められるほど
簡単なものではないのだ。



私の答えは1つしかない。




「考えたよ。ありがとうね、
すごく嬉しかったよ。
でもごめん、やっぱり私は
田中くんとは付き合えないや」


「そっか…」


沈黙が続く。





ダダダダダダダダ…


バンッ!!!


「名前!!!!」



沈黙を破ったのは
私でも田中くんでもなかった。





「牛頭…」

「電話!保健室!
倒れた!学校!」


そうとう混乱しているのか、
なんだか言葉が単語だけだ。
おそらく家に学校から
私のことで
電話があったのだろう。
牛頭が迎えにきてくれた。


心配してくれてるの?
嬉しい…


「お おい!痛いのか!
泣くな名前!」

「…え?」

目頭が、熱い。
私はいつの間にか
泣いてしまっていたようだ。
だって、久しぶりに
牛頭とちゃんと会話してる。
牛頭が、心配してくれてる。
牛頭が、牛頭が、牛頭が。


「うっ ふぇっ…」

「テメー名前に
何かしたか」

牛頭が田中くんに問う。
違うよ牛頭、
って言いたいけれども
言葉が涙に邪魔される。
それでも私は誤解を解くため
口を開いた。

「ち、が…ごず…

「俺は何にもしてねーよ」

田中くんの口から
弁解の言葉が発せられる。

「名前ちゃんに
ふられただけ」



お大事に、と笑顔で
付け足して、
田中くんは保健室から
去っていった。





また、沈黙。



今度は、私が沈黙を破る。

「牛頭、迎えにきてくれたの?」

「あ、ああ…。」

「そっか ごめんねー
鍛錬の途中だったでしょ。」

「休憩中だったから
来ただけだっ!
ったく、ほら帰るぞ」

「うん!」


牛頭は私が起き上がるのを
手伝ってくれた。


「あっ…」

「おっと」

よろける私を牛頭は
いつものごとく
受け止めてくれて。
ああやっぱり私は
牛頭がいないと…
と改めて感じる。


「そんなんじゃ帰れねえだろ」

そう言って牛頭は私に
背を向け、しゃがむ。

「え 何 おんぶ?
無理無理!!!!重いって!!!!」

いいから早くしろ、

と優しく言われたら
乗らないわけにはいかない。


牛頭の背中はあったかくて
歩くたびに軽く揺れるのが
とても心地よい。


昔はよくおんぶして
もらったなぁなんて考えてたら
そのまま私は寝てしまって。
目が覚めたときには
家の自室の布団の中だった。











トントン―
襖を叩く音がする。


襖が開き、牛頭が
部屋に入ってくる。

「おう名前起きたか」

「あ 牛頭ごめんね、
おぶってもらった上に
気持ちよく睡眠まで
とってしまいました」

「フン 礼はたっぷり
してもらうぜ」


普段通りの会話。
もとに戻れたと安心し、
笑顔になる。

しかし、笑顔なのは
私だけで。
牛頭はなんだかあまり
いい顔はしていない。


「名前」

牛頭が私を呼ぶ。

「なあに?」

「この間は悪かったな」

「田中くんのこと?
あれは私じゃなくて
田中くんに謝った方が…」

いや そうじゃなくて、と
牛頭が口をはさむ。

「…お前、あいつのこと
ふったのか?」

「え…?あー、うん…」

「好きじゃ、ないのか」

「うん…。」

「じゃあ、あいつが言ってた
『この間の奴』が
好きなのか」

「えっ!!!!」

な、なんでその話し
しってるんですか牛頭さん!
てか、え!
バレた!?///

「ふーん…
ま 今日はこのくらいに
してやるかな」


どうやら牛頭は
『この間の奴』が
自分であるということに
気づいていないようだ。

それが幸いなのか
そうでないのかというと
どちらともいえず。


その後牛頭は私の
頭を撫でてくれて。
「ほら、もっかい寝ろ」
って言って
立ち上がろうとした。



刹那、私は牛頭の
腕の袖をひっぱり
行かせまいとする。


「…なんだよ」

「この間は私が一緒に
寝てあげたんだから
今日は牛頭が一緒に
寝てくれる番でしょ?」


我ながら、
恥ずかしい台詞だ。


牛頭は少しの間目を丸くし、
そのあと
しょうがねえなぁ
と言いながら微笑み、
満足げに私の布団に
入ってきた。



とても暖かかった。
今夜は良い夢が見れそうだ。

















雨降って、地固まる
―君だから、苦しさも愛しく思える








(その日、私は夢をみた。)


(小さい頃の思い出)


(いつまでも忘れずにいたい)