朝、名前が誰かと
話をしている声で目が覚めた。
俺は寝たフリをして
会話の内容を聞いていた。
どうやら、男と
遊びにいくらしい。
嫌々対応する名前を見て
電話の相手にざまあみろと
心の中で呟く。


名前が出かけた後、
俺は隠れてついていった。
隠れるといっても
変装とかでなくてな。
俺は妖怪だから、
気配なくすとか余裕なんだよ
実は。
いや別に気になるとかじゃなくて
あいつはバカだから
少し心配なだけ。




名前が待ち合わせてたのは
この間俺が手を捻ってやった奴。
まだ懲りてなかったか
あのやろう。
骨折るくらいしてりゃ
よかったかな。




2人は喫茶店へ
足を運んだ。
さすがに俺は入れずに
外で様子を伺った。
寒かった。かなり寒かった。





数時間後、ようやく
2人が店から出てきた。
しかしさっき見たときと
明らかに何かが違う。


名前が、笑ってる。
俺や馬頭、牛鬼さまに
向ける笑顔と同じだった。
さっきまで、とても
嫌そうだったのに。
この数時間で名前の
あの野郎に対する気持ちが
変化したのだろう。
それがとても悔しかった。
たった数時間で
ここまで変わるのか、
ってくらいの変化で。
なんだか自分と名前が
今まで一緒に過ごしてた
十数年はなんなのだろうと
思ってしまったほどだ。


これは人間の男の力だろうか。
妖怪の俺にはわからなかった。






2人は公園に入り、
俺は植木の陰からこっそり
みていた。
2人の会話も聞こえる。
今はどうやら名前の
好きな人の話をしている。


「教えないよそんなの」

「えー…。ケチ」

「ケチじゃないです」

「もしかしてさ、
この間の奴…かな…?」


この間の…?
2人の会話の主が
俺にはわからなかった。


「図星か…」

「えっ別に!んーっと!///」


だ、誰だ!
この間の奴誰だ!!!!
俺が1人葛藤をしているとき、
見たくない光景が
目の前にあった。

あの野郎が、名前を
抱きしめている。


―は?

頭が真っ白になる。

「た、田中くん…?」

「名前ちゃん」

「は、はい」

「俺、名前ちゃんのこと
好きです。」

「……!!!!」

「俺じゃ、ダメかな…
考えて、くれないかな」



あの野郎、名前に
告白しやがった。
そして名前は黙って
何かを考えている。




「あの、ね、田中く…





「おいテメー家のこと
やらないでなに遊んでんだ」


俺は続きを聞くのが嫌で。
名前の声を遮り
2人の前に出た。
名前を抱きかかえ、
あの野郎から引き離す。



名前は少し怒っていた。
そりゃそうだよな
いきなり俺がでてきて
2人の邪魔して。



でも俺だって。









名前にその場から
離れてもらい、
野郎に話しかける。


「お前、あいつ好きなのか」

野郎はキョトンとしていたが
やがて微笑みながら
口を開く。

「ん…ああ。好きだよ。
俺はマジ。」



返す言葉がみつからない。




「アンタも好きなんだろ?」

「…だったら何だ」

心なしか、野郎は少し
悲しい顔をした。


しばらく沈黙が続く。

そして、奴は笑った。

「俺は負けないよ?」

「フン…」


野郎はじゃあな、と言うと
公園の出口に向かって
歩き出した。

俺も、名前のいる
方へ歩き出した。


















交差する、3つの想い
―重なり合う日はまだ未定





「帰るぞ」


それだけ言った。
これ以上喋ったら
熱くなる目から
何か出そうだ。


手を差し伸べたら
名前は握って
くれるだろうか。
不安で不安で
今日は手を出すことが
できなかった。