あったかいなあー
なんかいいにおいするし…
なんか重いし…





ん…?重…
重い!!!!苦しい!!!!






目を覚ますと、
目の前は真っ暗。
夜なのかと錯覚するが
闇の隙間からは光が
差し込んでいる。


わたしは脳内にゆっくりと
今の状態を知るための記憶を
呼び出す。


そっか、昨日牛頭の布団に
引っ張られて一緒に寝たんだ



とりあえず、苦しい。
原因は牛頭が私のうえに
手足をのせている、
というより
巻き付けているからだった。


「牛頭さーん…」
小声で呼んでみるが
もちろん返事はない。
かわりにスースーと
気持ちよさそうな寝息が
聞こえてきた。


とにかく苦しいので
力一杯牛頭を引き剥がす。
起こさないように慎重に。




―ヴーッ ヴーッ



妙な振動音が流れる。
その正体はわたしの携帯。

や、やばい!
あれうるさい!
はやくとめないと!


焦った私は少し乱暴に
牛頭を引き剥がした。

そして枕元に置いてある
携帯を手にとる。
どうやら電話らしいが、
登録していない番号からのようで
名前が表示されていない。



「もしもし…」

あくまでも小声で
電話にでた。

「あっ 名前ちゃん!
おはよう!」

「あー、田中くんか…」

朝っぱらから、すごく
テンションの高い相手。
それは仲良しグループの一員
田中くんであった。
どうしたんだろう。


「どうしたの?」

「今日デートしようよ!」

で、でーとって!
この人いきなりなんなの!

「いや、あの、ちょっと
それは困…

「この間、俺傷ついたなぁー」

「この間、って…」


あ この間か。
牛頭が、私の手を握る
田中くんの手を捻って
はらったんだよねたしか。
あれは確かに悪いことしたよね
いや私は何もして
ないんだけどね!
罪悪感感じる必要なんて
ないんだけどね!ね!


「俺傷心しちゃったよー
名前ちゃーん責任とってよー♪」

「どこのチンピラですかあなた…」


結局、彼に流され
デートにいくことになった。
約束の時間に間に合うように
私は準備をして家を出る。

「馬頭、私友達と遊びに
いってくるからね!
何かあったら電話してね。
帰りはそんなに遅くないから」

「わかったぁ!
気をつけてねーっ!♪」


軽やかとは言えない足取りで
私は街へ向かった。






***


「おーい!名前ちゃん
こっちこっち!」

声のするほうを見ると、
田中くんが手を振っていた。
どうやら私が後から
着たらしい。

「ご、ごめんね待たせた?」
って言っても待ち合わせまで
あと10分はあるけど!

「いやっ♪今きたとこ!」



田中くんは仲良しグループの
一員なのだが、クラスは違う。
いつの間にか私たちのグループに
違和感なく所属していた。
それはきっと、彼の
明るくて社交的な性格の
せいだろう。
ルックスはどちらかというと
チャラい部類になるのかな?
ピアスを耳に何個か
あけていて、明るめ短髪茶髪。
でも性格は多少強引なのを
除けば爽やかで優しいし、
顔も整っているから
女子にはそれなりに人気が
あるらしい。



「じゃ、いこっか!」

「えと、どこに?」

「行きたいとこ
あったりする?」

「特には…」

「よしっ!じゃあいいとこ
連れてってやるよ!」



そう言って、田中くんが
連れてきてくれた場所は
小さな喫茶店。
こんなとこ、普段は
こないから少しわくわくする。

「寒かったし、あったかいもの
飲んだら?ここうまいから♪」

「え…あ、そうだね!
じゃあ私ココアで。」

「了解っ!すみませーん!」


田中くんは慣れたように
店員を呼び、注文をする。
店員と顔見知りなのだろうか、
なにやら楽しげに話まで始めた。

「知り合いなの?」
私は何気なく尋ねる。

「うん、ここよくくるから
友達なっちまったんだ!」

あはは、と楽しそうに
彼は笑う。
私もつられて笑う。
ふと、牛頭のことが
頭に浮かぶ。
牛頭だったら、こんなとこ
一緒に来てくれないだろうな
だって牛頭は妖怪で、
私は人間だから―――。


「名前ちゃん?」

「…はいっ!?な、なに!?」

「いや、なんか、
もしかして楽しくない…?」


どうやら、いつの間にか
顔が笑っていなかったらしい。
心配してくれてるんだ。


「ううん、楽しいよ!
喫茶店なんて全然こないから
なんだか新鮮で」

「よかった!いつでも
連れてきてやるよっ」


それから、注文したものが
出てきて、私たちは何時間も
たわいのない話をした。


「わっ もう3時過ぎてるよ
俺ら何時間いたんだよ」

「本当だ!気付かなかったね」

本当に時間が過ぎるのが
早かった。
楽しいと時間過ぎるのが
とても早く感じる。

私たちは店をでた。