「来年の誕生日は私が一番におめでとうって言うからね!」


ってあいつは言ったのに、嘘をつかれた。今年一番初めに俺におめでとうを言ったのはリクオで、それにつられてみんなが俺におめでとうを言った。よりによって何で一番がリクオなんだ。何であいつは俺の誕生日を知っているんだ。まあそんなことはさておき、みんなにうざいくらいおめでとうを言われている時、あいつと目が合った。にも関わらず、あいつは俺に何も言わず、それどころかプイっとそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。しかしその原因に思い当たることがありすぎるからいつもみたいにキレるわけにもいかず、話しかけることもできずにあまり嬉しくもないおめでとうの嵐を受け流していた。というのが朝の話。


「ねえ牛頭ぅ、まだなまえと仲直りしてないのー?」

「馬頭にゃ関係ねーだろーが。」


なまえが俺にそっぽを向いた原因。それは俺たちの昨日のケンカにある。俺と馬頭はなまえの部屋にあがりこみ、くつろいでいた。その時、床に置いてあった布きれに俺が飲み物をこぼして染みを作ってしまった。


「あーっ!」

「い、いいだろこんな布きれくらい。」

「…布きれじゃないもん…。」

「どう見たって雑巾だろコレ!」

「…牛頭の馬鹿ー!爪と肉の間に針刺して死んじゃえー!」



あの野郎、地味に痛い事言ってそのまま逃げやがった。布きれの近くには裁縫道具が置いてあったからきっとなまえは何かを作っていたんだろうが、あいつの不器用さは甚だしい。あれはどう見たって雑巾だった。ねえねえと馬頭がいつまでも煩いから俺はその場を立って庭へ移動した。ここが奴良家内で一番落ち着ける場所だ。俺は木に登って、空を眺めた。もう月があんなに高く昇っている。あと数刻もすれば今日が終わる。つまり俺の誕生日も終わる。毎年毎年必ずあいつは俺の誕生日を祝ってくれていたから、あいつからのおめでとうがないのはやはり少し寂しく感じた。とその時、木の下に何者かの気配を感じた。


「牛頭丸、お前まだなまえと仲直りしてないんだって?」

「…首無か。別いーだろ、あんな奴。」

「本当にいいのか?」

「いいっつーの!なんなんだよみんなしてなまえなまえって。」

「ふーん、そっか。じゃあ僕がなまえに手を出しても何の問題もないんだよね。」

「…あ?」

「じゃああとでなまえの部屋にでも行こうかな。」


おい待て首無、なぜいきなりそういう展開になる。フンフンと鼻歌を歌いながらご機嫌そうに首無が去って行った。そういえば首無、なんつってた?なまえに手を出す…。俺の聞き間違えじゃなければきっとそう言っていた。いや、それは困る。だって俺はあいつが好きだから。こんなつまらないことでケンカしている間に首無なんかにあいつをとられたら多分この先俺はやっていけない。そう考えていたらいつの間にかあいつの部屋に向かって足が勝手に走り出していて、気付いた時にはあいつの部屋の前にいた。来たのはいいが、どうしたらいいかわからない。のこのこ謝りにきた、というのはすごく格好悪いし、何て言って入ろうかと考えていた。が、俺の目の前の襖が勢いよく開いたことによってその思考が途絶えた。


「…何やってんのさ。」

「…別に、通りかかっただけだ。」

「…あ、そ。」


なまえは襖をしめようとしたが、俺がそれを阻止するとなまえは驚いて襖から手を離した。入るぞ、と言って勝手に部屋にあがりこみ、部屋の中央にどっかりと腰を降ろした。なまえは珍しいものでも見ているみたいな目で俺を見ていたが、やがて襖を閉め、俺から少し距離のある場所に腰を降ろした。


「通りかかっただけの人がなんで部屋に入るの。」

「気にすんな。」

「気にすんな…って言われても。」


そこから数分、いやもしかしたら数十秒だったのかもしれない、沈黙が流れた。この重たい空気をなんとかしなければと思い、決心して、なあ、と声を発したらなまえの、ねえ、という言葉と重なった。お前から言え、と言うとなまえは少し躊躇ってから俺の目を見て話し始めた。


「昨日は怒ってごめん。」

「…俺も悪かった。」

「うん…。あれね、牛頭に巾着作ってたんだ。」

「巾着?俺に?」

「ほら、乾燥銀杏持ち歩いてるでしょ?だからプレゼントにって思ったんだけど…。」


やっぱり雑巾にしか見えなかったよね、ごめん。そう言ってあははと苦笑するなまえ。あれ、巾着だったのか。この期に及んでまだ言うかと思われるかもしれないが、あれは本当に雑巾だった。でもあいつは俺のためにプレゼントを用意しようとしてくれていたのに、俺はそれに対して酷い事を言ってしまった。例えそれが雑巾にしか見えなかったとしても、ああはっきりいうもんじゃなかったんだ。


「今さらだけど、…おめでと。」

「ん、…お前さ、去年俺に何て言ったか覚えてっか?」

「?」

「一番におめでとうって言う、ってやつ。」

「あ」

「はあ…。」

「…なんでもあげるから!私の手が届く範囲のものならなんでもあげるから!許せ!」

「なんでも、ねぇ…。」


お前が欲しいって言ったらお前、俺のもんになるか?率直にそう質問したらなまえは真っ赤になって目を見開いた。あ、俺今すげえ恥ずかしいこと言ったのかもしれない。雑巾みたいな巾着しか作れないけど嫌じゃない?あいつはそう言って心配そうに俺の目を見た。


「いつかちゃんとつくれるようになるだろ。」

「あ、否定はしないんだ。」

「今さらお前を甘やかす気はない。」

「…今めっちゃ甘いこと言った人が何言ってんだか…」

「何か言ったか。」

「言ってませーん。」


あと数分で明日になる。今年の誕生日プレゼントはギリギリだったけど、今までで一番嬉しいプレゼントだった。


















年に一度の
―大切な日がまた一つ


















「よし、上手くいったね馬頭丸。」
「首無の協力のおかげだよー!ありがとう!」
「それにしても牛頭って恥ずかしい事いうね。」
「それは僕もそう思う〜。」







***


牛頭の乾燥銀杏は妖秘録より。

牛頭さん誕生日ですよー!おめでとう!
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