なまえの声、表情、心。それらすべてを俺のものにできたら…。そう思ったのがことのはじまりだった。

なまえは今、俺の下で泣いている。俺が、なまえを泣かせている。それだけで心が満たされる。こいつは俺の所為で泣いていて、苦痛に顔を歪ませて。その表情が笑顔だったら、なんて贅沢は言わない。どんな形であれ、なまえは今、俺のせいで泣いている。それだけが重要なことなんだ。


「あっ、ぅぅ…ご、ず、やめ…な、んで…っ」

「っは、うっせーよ。」


涙に歪んだなまえの顔を見ながらはちきれんばかりの欲望をなまえに打ち付ける。嗚咽する声と小さく喘ぐ声が鼓膜を揺らし、更なる興奮に変わる。自分でもどうかしていると思う。きっと俺はこいつを想うあまりに狂ってしまったんだ。だとしたら非は俺だけにあるのではない。俺をこんな風にしたなまえのせいでもある。そう自分に言い聞かせ、俺は自分の行為を正当化しようとしている。


「やだ…っや、だ…!ん、んぁっ」

「嫌な割には締め付けてっけどっ、くっ…」


喘ぐのも締め付けるのも、なまえの気持ちからじゃない。生理的にそうなっている、そんなことはわかってる。それでも、自分の都合がいいように解釈しないと罪悪感に支配されてしまうから、今だけは、その声も身体の反応もお前が感じているからだ、と思わせてほしい。

絶頂に近づくにつれて、俺は行きつく先を考えた。行きつくところなど、一つしかないのに。俺は行為を終えた後、こいつとどうなるのだろう。少なくとも、今まで通りにはいかない。今までみたいに、くだらないことで笑ったりケンカしたり、他愛のない会話さえもできない。そう思ったら急激に寂しくなって。


「ご、ず…っ、んっ、泣いてっ…る…のっ?」

「!!」


ポタポタ。目が熱い。なまえの顔に雫が落下した。それは汗でも、なまえの涙でもなく、まぎれもなく俺の目から零れた雫だった。犯されてるというのにこいつは人の心配ばっかりして、そんなんだから俺が苦しくなるんだ。一気に罪悪感が込み上げた。泣いてねえと言って涙を流す俺は、打ち付ける速度を速めた。そんな俺をなまえは苦しそうな顔で見つめた。何か言いたそうだったが、批難されるのを恐れてそんな隙はあたえなかった。締め付けが、半端じゃない。きっとこいつも限界が近い。俺ももう何かを考える余裕もなくなって、なまえの声以外は、体外から得られなかった。


「…っ出すぞっ」


牛頭―。果てる一瞬前、なまえの声が聞こえた。俺の名を呼ぶ優しくて哀しい声を額縁の外へ追いやった。










行為後、俺は何も言わずに衣服を身に纏いはじめた。なまえは虚ろな目をして床に横たわっている。その目を見て、なんてことをしてしまったんだろうという後悔の念が襲った。でももう元には戻らない。時間は進むばかりで戻ってなどくれない。わかってほしい、とは言わない。ただ、知っていて欲しい。俺はなまえが大好きだ。ただそれだけだった。それだけだったはずなのに、な。


「…悪かった、じゃあ、な。」


ただ一言、謝ることしかできない自分がどうしようもなく憎い。お前に酷いことをして立ち去ることしかできない俺を裁いてくれる場所などもうこの世にはないのかもしれない。

襖に手をかけ、開いたその時。大好きなあの声がひどく残酷なことを呟いた。


「牛頭、…好き、だったのに…。」


固く目を閉じて、俺は部屋を後にした。




***


やらかした。(笑)
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