「ただいまー。疲れた疲れたー。」
「…おかえり。」
自室で休憩していた牛頭丸の元へ学校から帰宅したなまえが訪ねて行った。帰って自分の部屋へ行かずすぐにこの部屋へきたようでなまえはまだ制服のままだ。つい先日夏服へ衣替えをしたようで、今なまえが着ているのは夏用の薄手のセーラー服。あまり見慣れない夏服に牛頭丸は少しだけ顔を赤らめたがなまえは気付かなかった。特に用事などはないようで、部屋で寝転がったり牛頭丸にちょっかいをだしたりしていた。
「おい、あんまゴロゴロすんな。畳が傷むだろ。」
「いいじゃんかー、牛頭もゴロゴロしなよ!」
「しねーよ!つーかアレだ、パンツ見える。」
「キャア!変態牛頭丸!」
「誰が変態だ!テメーが見せてんだろうが!」
「これは見せパンだから見えてもいいんですー。残念でした!」
「みせぱん…って何だよ。店パン…?うまそうだな。」
「キャア!やっぱり変態!」
いつも通り騒がしい会話。他愛のない言い合いはいつも牛頭丸が折れる。言い返すことは出来るのだがなまえと言い合いをするといつそれが終わるのかわからない。だからわざと折れてやるのだ。牛頭丸がふいになまえの方をチラリと見ると、それに気づいたなまえも牛頭丸のほうを見た。数秒目が合っていたのだが気恥ずかしくなった牛頭丸はプイっと顔を逸らした。赤くなった顔を見られるのが嫌でなまえが寝転んでいる反対方向へ体を向けると、後方からなまえの声が聞こえた。
「何でそっち向いちゃうのさー。」
「テメーがそこにいるからだ。」
「えーひどーい。」
感情の籠らない声色でそう言った後、匍匐前進するようになまえは牛頭丸のもとへ近づいていく。来んなよ、と言う牛頭丸の声は虚しく、なまえは牛頭丸の背後までくると座っている牛頭丸の腰に手をまわしてぎゅ、と抱きしめた。その行動に赤面しているのは牛頭丸だけで、なまえは特に何も感じていないのか先程とさほど変わらない顔色だ。
「テメッ、何してんだ!離せバカ!」
「牛頭ったら照れちゃって、かーわーいーいー。」
「照れてねえ!つーかマジで邪魔だ!離せ!」
何度離せと言ってもなまえは牛頭丸を離す気はないらしく、背中に顔を突っ伏してさらに密着する。牛頭丸はなまえの手を掴み剥そうとはしているが、本当に離れてほしいわけではないらしく弱い力で剥すふりをしていた。しかし何度かそんなことを繰り返していると、牛頭丸の心境を知らないなまえは、牛頭丸が本当に嫌がっていると思いゆっくりと手を離した。その様子に少しだけ驚いた牛頭丸がそっと顔だけ後ろに向けると、そこには両腕の中に顔を突っ伏させたなまえがいた。話しかけるのもなんだか格好悪い気がして、1分程放っておいたが一向に動く気配がない。こういうことに関しては決して辛抱強くない牛頭丸はしびれをきらしてなまえの腕をちょんちょんとつついた。しかし反応がない。おい、と声をかけたがやはり反応しなくて、ため息を漏らしながら自らも床に肘をつけなまえと似たような体勢をとり、なまえの頭付近から声をかけた。
「おい。」
「…。」
「なんで黙るんだよ。」
「…グズッ。」
「な、なんで泣いてんだよ。」
鼻をすする音が聞こえたことからなまえが泣いているのだと知った牛頭丸は、その原因が自らにあるとわかっていたのでどうしようかとオロオロしてしまう。あわててなまえの頭を乱暴に、しかし優しく撫でてやると、なまえは顔をあげ、涙を浮かべた潤んだ瞳で牛頭丸をキッと睨みつけた。が、もともと童顔のなまえが睨んだところでさほど威力はない。しかし牛頭丸には別の威力が働いたようで、股のあたりがキュッとなった気がしたが、いかんいかんと邪念を打ち払った。
「…牛頭、最近冷たい。」
「そ、そう、か…?」
「私のこと嫌い?」
「は?なんでそうなるんだよ…。」
なまえの目に溜まっていた雫がついにこらえきれずに零れた。なまえの頬に指を添え、頬を伝うそれを牛頭丸は優しく拭いた。
「嫌いになんか、なれるかっつーの、バーカ。」
「…でもさっき抱きついたら嫌がったじゃんか。」
「本当に嫌だった訳じゃねえよ、って…こんなこと言わせんな。」
「でも、」
なまえの言葉を遮るように、声の発信源である唇を優しく塞ぐ。突然の行為だったため、酸素を十分に吸っていなかったなまえは少し苦しそうに、んっ、と唸った。それに気づいた牛頭丸は酸素が吸えるように少しだけ口を離し、なまえが酸素を取り込んだのを確認すると再び唇をくっつけた。逃げようとするなまえの頭を片手で抑え、夢中になって口づけをする。気付くといつの間にか牛頭丸の体はなまえの上にあって、いわゆる馬乗り状態だった。それでも尚その行為をやめようとしない。それどころか口づけは段々と深いものに変わっていった。柔らかく、生暖かく湿った牛頭丸の舌が、なまえの口内をくまなく犯し、歯列をなぞったり舌を絡め取ったりする。何分その行為を続けたのだろうか。しばらくして牛頭丸が舌の動きを止めると、ゆっくりと唇を離した。互いの口からは息が漏れる音が聞こえ、厭らしく光る銀糸が口どうしを繋いでいた。なまえの顔は変わらず涙目であるが、加えて顔が真っ赤になっていた。困ったように眉を八の字にして、牛頭丸と目を合わせようとしない。しかし牛頭丸はそれを不快に思わなかった。なぜならなまえは照れたり恥ずかしかったりすると絶対に目を合わさないからだ。今のなまえがその状態なのだから、不快どころかむしろ清々しいほどに嬉しい。おい、と声をかけるとおそるおそる自分の顔を覗くなまえに、牛頭丸は思わず顔をニヤリとさせた。
「これでもまだ不安だっつーなら、もっとすげえことしてやろうか?」
「も、もう不安じゃないっ!」
形勢逆転。最初はからかわれていた牛頭丸だったがいつの間にか立場が逆転していた。自分が優位に立ったことで優越感に浸るが、本当は、まだ不安だと言ってほしかったと思っていて、少し残念だった。顔を真っ赤にしている愛しき人を、組み敷いているこの状態で理性を抑えている自分に拍手喝采を博して、泣く泣くなまえの上からどいた牛頭丸であった。
寂しがりな君へ―嫌いになんかなれねえよ。
「牛頭。愛してるよ。」
「…はっ!?」
「あ、照れた。かーわーうぃー!」
「テメー、覚悟しろよ…?(ニヤリ)」
***
あっまーいっっっ/(^o^)\ゲロゲロあまーいっっ/(^o^)\そのまま襲っちゃえよ牛頭丸ーっっっ/(^o^)\