例えば、あくまでも例えばの話なんだけど。夢見がちょっとムフフな内容でただでさえ悶々してるっていうのにそのあとすぐに一つ屋根の下に住む愛しい人が寝ている部屋へ起こしに向かえと言われたとしよう。部屋にたどり着くまではどんな寝顔かなーとか寝相悪そうだなーとかちょっとした楽しい妄想を繰り広げていられると思うんだ。でも実際その部屋を開けてみるとそんな妄想している余裕なんかなくなるんじゃないか?はだけた衣服、無防備な寝顔。すうすうと寝息をたてて眠るその姿に欲情し…え?例えにしては妙にリアル?変態的?まあ、実を言うとこの話は例えじゃなくて俺の身に今ふりかかっている現実。どうにか自分を保たねばとこうして客観的に捉えるようにしてみたんだがどうやら無意味だったみたいだ。


「なまえ様、朝ですよ。休みだからっていつまでも寝ていないでください。」

「んー…」


一言唸ったが起きる気配がない。俺やトサカ丸、ささ美の三羽鴉はなまえ様の側近兼世話役だ。普段はささ美がなまえ様を起こすという役割だから俺が起こしに来るのは今回が初めて。どうして今日は俺が起こしに来たかというとただ単にささ美が留守だったから。親父に連れられてどこかへ行ってしまったようだ。トサカ丸に起こさせようと思ったが、兄貴本当は行きたいんだろあははと言われて図星をつかれた俺は反抗することもできずにのそのそとここへ来てしまった。俺はなまえ様の事をあまり見ないようにして傍に転がった枕と大きくはだけた布団を拾って、綺麗にたたむ。枕や布団からはなまえ様の香りと寝起き特有の気怠い香りがしてまた妙な気分になってくる。これはいかんと頭を大きく振りながら黙々とそれをたたんでいくが敷布団の上でごろんと寝返りをうったなまえ様を見てしまったらなんだか我慢するのが馬鹿らしく思えてきた。でも俺はただの側近で、ただの世話役。なまえ様にとっては下僕と同じなのだから。自分の身の程位わかっている。だから絶対に間違いは起こしてはいけない。絶対に。


「ささ…美ちゃ〜ん…まだ…眠…い…」


起きているのか寝ているのか。寝ぼけているのか寝言なのか。よくわからない。それに今日はささ美でなくて俺が来ているということに気付いていないようだ。はっきり目覚めたらなまえ様は驚くだろうか。というか本当にはやく起きてほしい。どうして最近の女はこう露出の多い衣服を好んで着るのだろう。なまえ様の部屋着は半袖にショートパンツ。薄い水色に桃色のリボンが可愛らしい。良く似合っている。じゃなくて本当にそろそろ起きてくれないと俺の身がもちません。お願いですからあんまりごろごろと寝返りを打たないでくださいほらまたチラリズムしましたよなにやってるんですかあなた危機感とかないんですか本家だからって安心しないでくださいいああううああ。


「なまえ様、いい加減起きてください。それに俺はささ美じゃありません。」

「…んー…違う…のー…?だれー…」

「黒羽丸です。さ、早く起きないと布団引っこ抜きますよ。」


うつ伏せになって布団を顔に押し付けているせいで顔は見えない。声も押し潰されてよく聞こえない。しかし、黒羽丸なのー?と俺を呼ぶ声はなぜだかよく聞こえた。想い人が自分の名を呼ぶというのはなぜか特別だ。ああ、無防備だ。あまりにも無防備すぎる。トサカ丸に来させなくてよかった。俺はなまえ様に近づき、身をかがめる。声をかけながらゆさゆさと揺さぶってみたが、やーめーてーと静かに言ってまた寝返りを打っただけ。するとなまえ様はゆっくりと細く目を開き、俺のことを怪訝そうな顔で見つめた。う、可愛すぎる。寝起きでその顔は反則ですよ、なまえ様。その時、にゅ、となまえ様は突然俺に向かって手を伸ばしてきた。


「起こしてー…」

「やっと起きてくれるんですか。はい、お手をどうぞ。」


そう言って平静を保ちながら俺も手を差し伸べるが正直心臓はバクバク。なまえ様の手を軽く握ると俺にはない柔らかさがそこにあった。フニフニしていて、寝起きたばかりのせいか熱い。引っ張るが、なまえ様にはやはりまだ完全に起きる気が芽生えていないようで起こすのに協力してくれない。布団に引っ張られているかのように後ろに体重をかけている。だからといって力一杯引っ張ろうにも寝起きたばかりの人に負担はかけられない。突然引っ張れば、腕を脱臼させることだってあるから。さてどうしようかと考える。一度手を放すとなまえ様は口をツンと上向きにさせた。俺が手を放したことにムッとしたようだ。まったく、そんなところも可愛すぎる。


「抱っこして起こしてー…。」

「っ!?なまえ様、抱擁など俺に…!」

「起こしてって言ってるだけでしょー…。はーやーくー」


そ、そうだ落ち着け俺…!抱擁じゃない、抱き起こすだけだ…!そう抱き…。起こす!そう!起こすだけだ!

「何一人で喋ってるのー…?」


心の中で唱えたつもりが声に出ていた。恥ずかしい。なまえ様が寝ぼけていてよかった。気を取り直して、なまえ様を抱き起こすために近づく。上半身をなまえ様を起こしやすい方向に向けて、腕を脇の下に回す。思ったより顔がっ…近いんですけどこれああなんか脇の下とかあったかいしうわあどうしたらいいんだ俺。顔が近い。即ち唇どうしも近いわけで。ちょっとしたアクシデントがあればくっつけられそうだなんて考えている俺を誰か叱ってくれ。



スッ―。突然聞こえた聞きなれた音。一瞬何の音だか分らなかったというか分かりたくなかったがそれは紛れもなく襖の開く音だった。襖が勝手に開くわけない。つまり誰かが開けたということ。まずい、端から見たらこの状況はまずい。そう思ったのも束の間、恐る恐る襖の方を見ないうちに、俺を罵倒する、帰宅したささ美の声が日曜の朝から高々と叫ばれた。


















違うんだってば
―頼むから話を聞いてくれ!



















それから数日、俺はささ美にも、それになぜかなまえ様にも、無視される日々が続いた。トサカ丸だけが慰めてくれたのが唯一の救い。











***


やっぱりこうなる黒羽丸夢/(^o^)\
なんでだろうなんでだろう!

黒羽丸はムッツリだったらいいな!
っていう勝手な要望です!(笑)
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